2014 Fiscal Year Research-status Report
重層的差異を生きるフィリピンのイスラーム改宗女性:つながりとジェンダーの動態から
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25760008
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Research Institution | Bunkyo University |
Principal Investigator |
渡邉 暁子 文教大学, 国際学部, 講師 (70553684)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フィリピン / イスラーム改宗 / 女性 / 海外就労 / 婚姻 / 重層的力関係 / 差異 / 社会再編 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、フィリピンとカタルに1回ずつ渡航し、計16日間の調査を実施した。 フィリピンでは、2つのムスリム・コミュニティを訪れ、7名のイスラーム改宗女性とグループディスカッションを実施したほか、4名の各分野の専門家(フィリピン・ムスリム研究の専門家、地方史の研究者、改宗女性を支援する活動家、地域の女性リーダー)への聞き取りを行い、多側面からの考察を試みた。それによって明らかになった主要な点は次の通りである。まず、女性の改宗時期により、イスラーム実践および他者関係が異なる傾向にあることがわかった。1990年代以前は、ミンダナオ紛争によりフィリピン国内社会でムスリムに対し嫌悪感を強く持つ者が多かったことと、湾岸地域への女性出稼ぎ労働者が少なかったことから、改宗者とは主にムスリム男性の妻という地位を得て、フィリピン・ムスリム社会に溶け込もうとする動きが主だった。そのため、民族衣装を着用しつつも、そのイスラーム実践は夫や夫の親族の教えによって習得したものであった。他方、90年代以後は、女性出稼ぎ労働者の低年齢化と、湾岸諸国でのイスラームとの接触の増加によって、自ら改宗し、湾岸諸国の文化や服装、思考を持ち込んだ。これに付随して、フィリピン・ムスリムの女性たちは、中東で改宗して帰国した女性たちを、ミンダナオでは忌避しつつも、マニラのような都市では新鮮なものとして捉えていることがわかった。 カタルの調査では、首都ドーハを中心に生活する労働者および家事労働者9名について、イスラーム改宗の契機、改宗による社会関係の変化、世界観の変化等について聞き取りを行った。、カタル・イスラーム文化センター男性部門と女性部門、カタル・ゲスト・センター女性部門、カタル・イスラーム宗教局女性部門長にもお話をうかがい、雇用主もしくはカタル人からみたフィリピン人労働者の改宗についての見解を聞き取った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、目的としていた重点フィールド調査、および短期フィールド調査を行うことができた。しかし、校務の関係で、それぞれの調査期間は、予定していた期間の半分であり、必ずしも十分な調査ができたとはいえない。 しかしながら、昨年度のシンガポールでの学術交流の成果として、カタル財団イスラーム研究科(QFIS)から招へいされ、そのワークショップの準備のなかで、フィリピンのマイノリティとしてのイスラーム教徒の新現象としてイスラーム改宗を捉えなおすことができたことは、研究をさらに一歩進める手立てとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のワークショップでのコメントや学術交流で得られた知見をもとに、平成27年度は、重点/短期フィールド調査を行いながら、研究を一層深化させていく。
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Causes of Carryover |
校務のため、英語論文の執筆が年度末まで終わらず、予定していた英文校閲代を支出することができなかった。また、図書資料の購入期限に間に合わなかったため、次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、英文校閲費と図書資料代に用いる。
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