2014 Fiscal Year Research-status Report
翻訳研究アプローチによる言語規範としての女ことばに関する研究
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25760015
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
古川 弘子 東北学院大学, 文学部, 准教授 (70634939)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 翻訳学 / 翻訳研究 / 規範 / ジェンダー・イデオロギー / 女ことば / 文末詞 / 児童文学 / フェミニズム翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、昨年度から継続して研究している課題(1)翻訳者の性別が文末詞使用に与える影響、(2)児童文学における言葉づかいとその変遷、と新たな課題(3)これまでの分析結果の理論的説明、(4)西洋と日本のフェミニズム翻訳の比較、に取り組んだ。 (1)と(2)については、これまで収集したデータの分析を進めることに取り組んだ。ここでの課題は、これまでの研究結果を口頭発表し、口頭発表がすでに行れたものについては論文の形にまとめることであった。 (3)は、これまで分析してきた事象を理論的説明によって提示するという課題である。本研究では、多元システム理論(Polysystem Theory)を基に日本語に訳されたテクストを日本社会システムの一部、つまり、翻訳テクストは言語規範、ひいてはジェンダー・イデオロギーの表象物であるとみなして記述的翻訳研究(Descriptive Translation Studies)を行っている。そのため、ジェンダー・イデオロギーや言語規範、翻訳規範に関する文献研究は必須である。平成26年度は文献研究とCETRA Summer School(「11.現在までの達成度」で詳述)へ参加し理論面の理解を深めた。 (4)の比較研究では、西洋のフェミニズム翻訳は日本で受け入れられるのかについて考察した。具体的には、まず北米とヨーロッパで1990年代から盛んに議論されてきたフェミニズム翻訳の歴史、意図、方略、受容を探り、日本で実験的に行われたフェミニズム翻訳と比較分析した。その上で、日本におけるフェミニズム翻訳とは何かを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「1.翻訳者の性別が文末詞使用に与える影響」に関する研究成果は、日本通訳翻訳学会第15回会年次大会(愛知学院大学)、2014年度東北学院大学文学部英文学科公開講義(東北学院大学)にて口頭発表された。さらに、研究成果をまとめた論文は書籍Translating Women from Beyond the Anglo-American Euroszoneの1章分として編集者に提出された(査読付、近刊予定)。 「2.児童文学における言葉づかいとその変遷」については、平成26年度にBangor University(UK)で口頭発表した研究をさらに掘り下げて論文にまとめた。その成果はComparative LiteratureのInternational Journal、Neoheliconへの掲載が決定した(査読付、近刊予定)。 「3.これまでの分析結果の理論的説明」については、本研究が拠っている記述的翻訳研究(Descriptive Translation Studies)の中心的存在であるCETRA Summer School(KU Leuven、Belgium)に書類選考を経て参加し、翻訳学の第一線で活躍する理論家の講義と、理論家や参加者とのディスカッションを通して理論面の理解を深めることに努めた。このCETRA Summer Schoolでは、本研究のこれまでの成果をまとめた口頭発表も行った。 「4. 西洋と日本のフェミニズム翻訳の比較」研究については、「西洋と日本のフェミニズム翻訳」と題した論文を執筆し、翻訳学のジャーナル『翻訳研究への招待』(第12号: 21-37、査読付)にて発表した。 また、昨年度取り組んだ「翻訳テクストの女性登場人物の文末詞使用」についての研究成果をPoetics and Linguistics Association Annual conference (University of Maribor、Slovenia)にて口頭発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
翻訳テクストに現れる女ことばと日本社会におけるジェンダー・イデオロギーとの関係について研究するにあたり、登場人物のセクシャリティがその言葉づかいとどのように関わるのか、その言葉づかいには何か明示的な機能が与えられているのか考察することは必要不可欠である。そこで、小説に描かれた登場人物のセクシャリティや筋書きが、翻訳者の文末詞選択に与える影響を定量的・定性的手法で研究していく。 また、上述のCETRA Summer School(KU Leuven、Belgium)で翻訳規範の重要性について考えるうちに関心を持つようになった、実際に出版された翻訳テクストとそのshadow translationとの比較分析についても進めていきたい。
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