2013 Fiscal Year Research-status Report
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25770012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
長綱 啓典 帝京大学, 総合教育センター, 講師 (00646482)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 近世ドイツ国家論 / ポリツァイ / 保健・衛生行政 / 世俗化 / キリスト教 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
16世紀から18世紀にかけてドイツ語で書かれた政治的文献の主要目的は「公共の福祉」の概念でもって表示されていた。そのため、主に近世ドイツ国家史論において公共の福祉論の研究が進められてきた。ところが、このような脈絡の中でG・W・ライプニッツ(1646-1716)の公共の福祉論が取り上げられることはほとんどなかった。同時代の動向と軌を一にして、ライプニッツも自らの国家論の鍵概念として公共の福祉について詳細に述べているにもかかわらず、である。本研究は17~18世紀ドイツにおける公共の福祉論の展開という観点からライプニッツの所論の特徴と意義を明らかにすることを試みるものである。 ライプニッツの公共の福祉論と一口に言っても、その射程はきわめて広大である。その福祉政策上の提言は、経済、マニュファクチュア、教育、保健・衛生など、多方面にわたってなされる。本研究では特にライプニッツの保健・衛生行政論に注目しているが、そのことによって彼の公共の福祉論の特殊近世的な性格が明確に示されつつある。 一方で、ライプニッツの保健・衛生行政論は①その主体が「国家」である点、②その標的はあくまでも「身体の健康」である点、③「統計」を手段としながら臣民の健康が数量的に把握されるべきことが要求される点、これらにおいて中世の保健・衛生論とは区別される。しかしながら他方で、①行政の最終的な目的が「神の栄誉」に置かれる点、②行政のモチベーションが「慈愛」に求められる点、③教会や修道院の制度が保健・衛生官庁のモデルとされ、さらには聖職者自身が臣民の「身体の健康」の管理にも積極的に関与すべきことが説かれる点、これらにおいて18世紀後半以後の、より近代的で、より世俗化した保健・衛生論とは区別される。ここにライプニッツの公共の福祉論の特殊近世的な性格が明瞭に示されているとみなすことができるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は平成25年度の研究計画として以下の3点を設定していた。1.ライプニッツ・アカデミー版全集第4系列(政治的著作)第1巻に収録されている諸著作を中心的な考察対象としてこれを読解し、ライプニッツの公共の福祉論における「慈愛」の観念の体系的な位置づけと役割を解明する。2.上記アカデミー版全集第4系列第1巻と時期的に対応している、アカデミー版全集第6系列(哲学的著作)第1巻に収録されている自然法論関連テクストを補助的に用いて、「慈愛」というキリスト教的な観念の政治的文書での機能の仕方を明確にする。3.ライプニッツ以前の公共の福祉論者たちに関わる資料を国内外の図書館にて収集し、次年度の研究に備える。 1について、所期の目的はおおむね達成されたとみなすことができるであろう。とりわけ、「協会設立に関する考察の梗概」を精読することにより、公共の福祉を実現すべき国家にとって福祉政策実施のためのモチベーションとして「慈愛」の観念が設定されていることが明確になった点、大きな収穫であった。 2について、必ずしもアカデミー版全集第6系列に収録されている著作ばかりでなく、海外の研究者の協力のおかけで、今後アカデミー版全集第7系列に収録予定の重要著作、「医業に関する諸指導」も参照することができた。これにより、自然法論との関連ばかりでなく、保健・衛生行政との関連からも、慈愛の観念の政治的文書での機能の仕方が確認された。 3について、まだ十分な資料を入手することができていない。そのため、ライプニッツ以前・以後の公共の福祉論者たちの資料を収集し読解することは平成26年度にずれこむことになる。 以上から、本研究の現在までの達成度について、「おおむね順調に進展している」と評価されうるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの達成度」でも述べたように、ライプニッツ以前・以後の公共の福祉論者たちの資料を収集し読解することが十分にできていない。それゆえ、平成26年度はこの点に集中的に取り組む予定である。とりわけ、ライプニッツにおける公共の福祉論と他の論者たちにおけるそれとの共通性と差異性を明らかにするためには、17世紀ドイツの代表的な国家論者であるV・L・v・ゼッケンドルフ、さらには18世紀の重要な保健・衛生行政論者であるJ・P・フランク、この両者の所論との比較検討が必須であると思われる。 また、ライプニッツの保健・衛生行政論上の著作についても引き続き考察を進める。とくに国家によるペスト対策と軍隊における衛生の確保とをその重要な論点として挙げることができるであろう。そして、ライプニッツの保健・衛生論の近代的な特徴を示すものであると思われる「統計」についても、W・ペティやJ・グラントに関する研究をも手引きとしながら、より正確な把握を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(88,838円)に相当する金額を使用するのに適当な支出の必要が認められなかったため。 ライプニッツ以前・以後の公共の福祉論者に関連する資料・図書の購入費用、申請者の渡独費用、そして海外研究者の招聘費用の一環として使用する。
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Research Products
(3 results)