2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770165
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
大柴 慎一郎 高野山大学, 文学部, 研究員 (20454803)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 篆隷萬象名義 / 空海 / 弘法大師 / 説文解字 / 玉篇 / 俗字 / 懸針篆 / 古今文字讃 |
Research Abstract |
本年度は研究者の中国語で作成した『篆隷萬象名義』校訂本(草稿)を日本語に変換し、かつ注釈を本文の各項に移す作業を行った。IMEにないフォントは今昔文字鏡を使用した。また文字鏡に収録しない字も存在し、それらは外字作成した。例)「譖」の小篆。次に中華書局『篆隷萬象名義』末尾に載る劉尚慈氏「篆隷萬象名義校字記」並びに呂浩氏『篆隷萬象名義校釈』と研究者の校訂本を校合した。以下は新たに得た知見の概略である。 1、原本『玉篇』との相補関係について、(1)、『萬象名義』は唐本『説文』と原本系『玉篇』を合わせて編纂した字書である故、現存する原本『玉篇』残巻は『萬象名義』校訂の基本資料となる。また逆に『萬象名義』高山寺本から原本『玉篇』の誤写を指摘することもできる。例)原本『玉篇』は「言+参」の釈義を「想怒使」とするが、高山寺本は大徐本『説文』と同じく「想」を「相」とする。(2)、両者の反切字から原本系『玉篇』の中にも異同が見られる。例)言部「糸+言+糸」の反切上字について、両者の間で「陸」と「力」の相違が存在する。 2、宋本『玉篇』との関連で、(1)、逆に宋本『玉篇』を校訂することが可能。例)「心+冀」項「強直為「心+冀」」の後に「中」を闕く。「厥+心」項「強也」は「強力也」。(2)、『萬象名義』との異同の存在。例)「辛+辛+心」字の「心」旁について、『萬象名義』は二つの「辛」字の間に置くが、宋本は底部に置く。 3、大徐本『説文』及び『段注』と『萬象名義』及び原本『玉篇』との比較によって、(1)、唐本『説文』の原型を知り得るところが存在する。例)大徐本「謝」項の「去」は省くべきであり、『段注』「言+奢」項の「拏」は「言+奴」に改変すべきである。(2)、親字の順序について、『萬象名義』と小徐本が一致するが、大徐本が異なるものがあり、唐本『説文』と大徐本との相違点と考えられる。例)言部「言+習」項。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
『篆隷萬象名義』は基本的に唐本『説文』と原本系(唐本)『玉篇』を合わせて作られた字書であるが、『篆隷萬象名義』所出の古文・籀文の中には、大徐本『説文』に見られない古文などが散見された。そこで研究者は、弘法大師が『説文』以外にも何かの資料を参照して『篆隷萬象名義』を編纂しているのではないかと考え、弘法大師の著作を再度洗い直すことにした。そこで『遍照発揮性霊集』に見られる『古今文字讃』に着目するに至った。 『古今文字讃』は弘法大師研究の先賢の間では、等しく散逸した文献と見做されてきた。しかし研究者は幸いにも、全国の四か所の大学付属図書館及び研究所に、その写本が伝存していることを発見した。その四か所とは、すなわち国立国語研究所、四天王寺大学恩頼堂文庫、東京大学史料編纂所、名古屋大学である。今回見つかった写本は、名古屋大学所蔵本を除いておそらく室町時代のものと考えられる。よって弘法大師の真蹟とはならないが、それでも弘法大師が大唐から請来した書物であることは確かであり、今まで題目のみが知られて、散逸したと考えられていた高祖の請来本が見つかったことは、真言宗門及び弘法大師研究にとっては大きな出来事であった。 研究者が所属する高野山大学密教文化研究所はこの発見を重視して、研究者に和歌山県伊都振興局において記者会見をさせた。その結果、新聞各紙及びNHK和歌山放送に報道されるに至った。そのおかげで、昨年度の大半は『古今文字讃』に関する研究発表に終始することになった。報道並びに研究発表の詳しい情報は後に記すとおりである。以上が本研究の遅延している理由である。 『古今文字讃』は上中下巻の三巻から成り、各巻に7種、合計で21種類の雑書体を載せている。その中に『篆隷萬象名義』の小篆と同じ懸針篆が含まれており、『篆隷萬象名義』の校訂研究に資する真に貴重な資料となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に行えなかった第三、四、五帖の校訂作業を進めて行く。先ずは呂浩本との比較を終え、それが終われば、引き続き釈義においては商艶涛氏「『篆隷萬象名義』釈義上存在的問題研究」、反切においては周祖庠氏『篆隷萬象名義研究』及び郭萍氏「「『篆隷萬象名義』反切考」などの先行研究と校合する。 その後に原本『玉篇』残巻の打ち込みを全て終わらせる必要がある。しかし、周知の通り、原本『玉篇』残巻は多くの誤字脱字が存在し、よって打ち込み作業は実際のところ原本『玉篇』の校訂作業でもある。この作業には岡井慎吾氏『玉篇の研究』、徐前師氏『唐写本玉篇校段注本説文』、朱葆華氏『原本玉篇文字研究』、胡吉宣氏『玉篇校釈』などの先行研究を参照する。 次に『類聚名義抄』に収められている『篆隷萬象名義』の抽出作業を行いたい。『類聚名義抄』はその編纂過程で「弘云」として『篆隷萬象名義』を引用していることが知られ、『篆隷萬象名義』の校訂に不可欠な資料である。 次に、諸資料に散在する原本『玉篇』を蒐集し、『篆隷萬象名義』の校訂に反映させる作業をしたい。これにはすでに多くの先行研究が存在する。上述の岡井氏の研究をはじめ、近年の井野口孝氏「原本系『玉篇』佚文の収集とその研究」などの先行研究を包括した校訂作業を行いたい。 また研究者が独自に知見した資料も加味する。例えば『定本弘法大師全集』第八巻の附表「反切一覧」は、おそらく原本『玉篇』のものと思われる。京都毘沙門堂所蔵『古今篆隷文體』末尾に載せる「書」の一項は、正に原本『玉篇』そのものである。また小篆・古文・籀文の校訂に関して、前述した『古今文字讃』の懸針篆は新たな資料となる。また「御物の手鑑」の篆書も懸針篆の特徴を有し、参考資料となる。それが終われば、釈義の典拠を確認する作業に入ることになるが、おそらくそれは来年度の研究課題となろう。
|
Research Products
(5 results)