2014 Fiscal Year Research-status Report
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25770165
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Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
大柴 慎一郎 高野山大学, 文学部, 研究員 (20454803)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 『篆隷萬象名義』 / 『古今文字讃』 / 小篆 / 『古今篆隷文體』 / 弘法大師 / 空海 / 原本『玉篇』 / 反切 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は当該年度において、主に原本『玉篇』残巻に相当する箇所の『篆隷萬象名義』(以下『萬象名義』と略す)の校訂を実施した。具体的には心部から食部の黎・羅の両本(『古代字書輯刊 原本玉篇残巻』中華書局、1985)を扱った。 原本『玉篇』残巻は校訂作業によって、数多くの誤字・脱字・顛倒が存在していることが明らかとなった。今、羅本における誤字・脱字・顛倒の数を記せば、言部が259箇所、曰部が12箇所、乃部が10箇所、(号-口)部が9箇所、可部が10箇所、兮部が17箇所、号部が1箇所、(虧-左旁)部が26箇所、云部が19箇所、音部が32箇所、告部が14箇所、(口+口)部が29箇所、品部が10箇所、(品+木)部に8箇所、龠部に15箇所、冊部が11箇所、(口×4)部が28箇所、只部が2箇所、(内+口)部が9箇所、欠部が172箇所、食部が194箇所(途中)である。 また、原本『玉篇』と『萬象名義』高山寺本を比較するに、『萬象名義』の釈義には多くの欠落並びに省略が確認でき、ほとんど原形を留めていない項目も少なくない。また原本『玉篇』の典拠の文章からの抜粋が正確でない箇所も間々見られる。これらは弘法大師の編纂とは考え難く、高山寺本までの転写の過程で、相当の混乱があったことが想像される。 また、報告者は後述の「『篆隷萬象名義』目録の校訂研究」を提出した。この結果、『萬象名義』の冒頭に附されている目録と本文中の各部首に記されている反切文字に異同が見られた。これは目録と本文で使用されている原本『玉篇』が別系統であることを示している。『萬象名義』は第五帖の冒頭に続撰者の惹曩三仏陀の名が見られ、後半部分は弘法大師の編纂ではないと考えられるが、目録はその惹曩三仏陀よりも更に後世の後補であることが推測される。目録は『萬象名義』を引く便宜上、後世の者によって付け加えられたものであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先年度は『古今文字讃』の発見があり、その対応と関係論文の作成並びに発表のために大半の時間を割くこととなった。当該年度において、報告者は『古今文字讃』の発見と相俟って、過度のストレス(精神的な疾患)から体調不良となり、実家へ帰省して通院しながら研究を行わざるを得なかった。このため、所縁の学会に参加して口頭発表することが身体的に厳しく、断念せざるを得なかった。その結果、本年度はただし後述の二本の論文発表のみとなった。両年度のこのような事情から、当該研究は当初の予定した通りに進んでいない。 また上述の如く、『萬象名義』の校訂の為に不可欠な原本『玉篇』の校訂に時間を要している。原本『玉篇』の校訂を行わずして『萬象名義』の正確な校訂を行うことはできない。しかし原本『玉篇』の校訂に関する先行研究は国内外において見られない。それ故、発表者が目的とする『篆隷萬象名義』の校訂研究のために、その前段階として原本『玉篇』残巻の校訂を完成させなければならない。本年度は原本『玉篇』残巻の校訂作業に終始した。その過程で多くの有益な成果は得たものの、本題である『篆隷萬象名義』の校訂作業は遅々として進んでいないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、現在行っている原本『玉篇』残巻の校訂を完成させたい。その結果、(1)原本『玉篇』残巻に相当する『萬象名義』の校訂が同時に完成する。(2)原本『玉篇』との比較から、『萬象名義』高山寺本には隷定古文・隷定籀文が多く欠いていることが知られるが、少なくとも原本『玉篇』残巻部分の『萬象名義』は、その欠を補うことが出来る。(3)原本『玉篇』に引用されている古典の全体像が判明することによって、『萬象名義』の釈義の出典が基本的に原本『玉篇』所引のものに限定される。それによって、出典を記さない『萬象名義』釈義の典故を探す目星が付く。 原本『玉篇』残巻との比較から、『萬象名義』高山寺本には相当数の誤写・欠落が存在していることが知られる。『萬象名義』のテキスト上の問題を解決するためには、編纂の基となった原本『玉篇』の正確なテキストが必要不可欠となる。しかし管見の及ぶ限りでは、原本『玉篇』残巻の翻刻の先行研究が見られず、その翻刻・校訂自体が大きな研究成果となるはずである。まずは原本『玉篇』残巻の翻刻・校訂研究を完成させ、それを足掛かりに『萬象名義』本文全体の校訂へと拡大したい。 また年度末には、原本『玉篇』残巻とそれに対応する箇所の『萬象名義』の翻刻・校訂本を出版することを目指したい。それによって、本研究の目的の一端を果たしたいと考えている。 また、前述の目録と本文における反切文字の異同に関する論文を作成したい。報告者はすでに俗字に関する報告は終えている。本年度は小篆に関する論文を発表した。来年度は残る古文と籀文に関する論文を発表する予定である。これによって、『萬象名義』に用いられている各種の文字に関する報告は、完結することになる。
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Causes of Carryover |
来年度に購入したい書籍の費用にあてるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
『開成石經』を購入する予定。
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Remarks |
本年度に作成した「『篆隷萬象名義』小篆研究」は、後日に高野山大学密教文化研究所のHPにて公開される予定である。
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Research Products
(3 results)