2013 Fiscal Year Research-status Report
ハプスブルク帝国の「植民地なき植民地主義」研究 -海軍とイデオロギーの観点から-
Project/Area Number |
25770269
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
大井 知範 明治大学, 政治経済学部, 助教 (90634238)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハプスブルク帝国 / 海軍 / 東アジア / 帝国主義 / 植民地主義 / オーストリア:ドイツ |
Research Abstract |
本年度は、これまでの歴史研究において存在があまり知られていないハプスブルク帝国の在外海軍の実像を探るため、海外での史料調査を活動の中心とした。実際に当該年度に訪問し、史資料を閲読および回覧した文書館と博物館は、オーストリア国立文書館、オーストリア王家・宮廷・国家文書館、ウィーン世界博物館の各館、および、ドイツ海軍との関係性を知る手がかりを求め、フライブルクの連邦軍事文書館とベルリンの国立図書館を訪問し研究調査を行なった。 こうした海外における研究活動を通して、本年度では以下の史実を明らかにすることができた。まず、ハプスブルク帝国が軍艦を東アジアに派遣常駐していた理由として、居留民や通商の保護、「ショー・ザ・フラッグ」、将兵の航海訓練といった目的があったことを一次史料から裏づけることができた。ただし、ハプスブルク帝国が海外に植民地を持たず、守るべき自国民や経済的な権益が乏しいことに鑑みれば、その常駐目的をこれらの観点からのみで説明づけることはできない。それゆえ、現地から定期的に本国に発送された「ステーション司令官(軍艦長)定例報告書」の細部に注目し、日常の些細な報告事項を拾い出し分析を試みた。その結果、日常の交流活動を通じて列強の海軍、外交団、外国人社会との結びつきを強固に保ち、帝国主義世界のなかで「支配者」側の一員として自己の立ち位置を固めようとしたハプスブルク帝国の姿を捉えることができた。 一方、ドイツ帝国側の諸史料の調査により、ハプスブルク帝国の在外海軍が同盟国ドイツの在外海軍と寄り添って活動していたわけではなかった史実が明らかになった。つまり、海軍艦艇の活動を支える東アジアの海洋世界は、陸上で進む排他的な勢力圏分割とは異なり国際協調の色彩が強く、それゆえ、自前の活動拠点を持たない「植民地なき」ハプスブルク帝国の海軍も自由自在に活動を展開することができたのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーストリアとドイツにおける史料調査を通して、研究に必要な一次史料の収集を当初の計画通り進めることができた。ただ、オーストリアの各文書館は、史料出庫依頼が1日3点までと制限が課せられているため、限られた滞在期間中に必要な史料をくまなく調査することはかなわなかった。本年度の調査活動の過程で得られた史料に関しても、手書き文書が想定よりも多かったため解読に時間を奪われ、分析や論文執筆作業に遅れが生じた。それゆえ、研究計画②に掲げた「イデオロギー」の解明に向けた取り組みに入ることができず、次年度への課題として積み残すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画策定時の為替レートから4割ほど円安が進んでいる事情に鑑み、海外調査を主軸とする本研究は予算の大幅な縮減に直面せざるをえないのが現状である。それゆえ、予定を一部変更し、当初計画に含まれていた本年度のスイス渡航と史料調査は断念し、対象地をオーストリアとドイツに限定したうえで1か月ほどの史料調査・収集活動を想定している。その際、ウィーンの各文書館を再訪し収集史料の補完を図るほか、新たにオーストリア国立図書館、ベルリンの外務省政治文書館を訪問し、新規の史料調査を行なう予定である。さらには、史料の量的な補充に加え、研究の質的な拡充を図るべく、研究対象地に新たに「太平洋・オセアニア島嶼」を加え、「アジア太平洋」というより広範な枠組みのなかでハプスブルク帝国の「植民地なき植民地主義」の解明に踏み込むことを考えている。以上の成果は、学術雑誌への投稿や著書出版の形で具現化することを最終目標とし、研究最終期間となる平成26年度中に執筆に着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
所属している他の研究プロジェクトから旅費の一部助成を受けたため、夏期に予定していたドイツ・フライブルクでの史料調査に本科研の予算を使用する必要がなくなった事情による。 前年度よりの繰越金は、次年度夏期のオーストリアとドイツにおける研究旅費に充当し、円安により生じた予算計画の狂いを調整すべく使用する。
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