2015 Fiscal Year Research-status Report
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25780061
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90323625)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 民法 / 契約法 |
Outline of Annual Research Achievements |
債権法改正にかかる民法改正法案が国会に提出されたことを受け、昨年度より、典型契約冒頭規定や典型契約の意義に関する検討を行ってきたが、本年度も、その点に関連する検討作業をいくつかの方向で継続して実施した。 一つは、要物契約が諾成契約化されるに際し、従来の要物性の要請がその新たな規律の中でどのように反映されているのか、という問題である。すなわち、改正法案では、要物契約とされてきた以上の各類型の契約について諾成的合意による成立が認められる一方で、その拘束力について制限または緩和する旨の各種の規律(目的物の受取り前解除権など)が、要物性の要請に代替する形で導入されていることが分かる。寄託・使用貸借・消費貸借というかつての要物契約の各類型において、典型契約規定がいかなる内的構造をもって定められているのか、またその構造を支えるべき理論的基盤は何に見出されるべきかという点は、典型契約制度の意義と構造の理解に関わる重要な理論的課題である。以上の点に関する検討結果の一部は、民法改正法案に関する解説書(近刊)における担当部分の記述に反映されている。 もう一つは、イタリアにおけるカウザ論をめぐる問題である。イタリア法に関する検討については次年度を予定していたが、典型契約制度の意義に関する検討との関連において、以上の問題に関する検討が特に重要な意味を持ち得ることに鑑み、本年度から本格的な検討を開始することとした。イタリアのカウザ論に関しては、2000年代に入り抽象的カウザ論から具体的カウザ論へと判例がその立場を推移させたことや、その背後にある学説の動向において、「各当事者における個別的な債務負担の原因とは異なるカウザの客観的理解を前提としつつ、その内容の具体化を追求する理論的方向性」が見出される。この点は、典型契約論の意義に関する極めて重要な示唆を有するものであり、引き続き検討を行うこととする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
債権法改正に関する民法改正作業の進展を受け、整合性原理に関する研究課題の中で、典型契約制度に関する検討をより重点的に行う必要が生じたため、それに対応する形で本研究課題に関する具体的な検討内容についても適宜調整を行いつつ、検討を進めている。その中で、イタリア法に関する重要な検討結果を得られ、次年度における検討に繋げることができたことは、以上の調整による積極的な成果であると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本研究課題における最終年度であり、様々な検討結果を収斂させていくことが必要となる。ここでは、典型契約類型および典型契約規定の内部における規範構造上の整合性の要請を中心として、典型契約制度の意義と構造について一定の方向性を示すことが、一つの研究目標となる。 また、2016年8月から、オックスフォード大学での在外研究を行う予定であり、以上の点を含めた本研究課題に関する検討についても、この英国での在外研究期間の中でさらに深めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
予算執行における端数として、少額の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
以上の残金については、次年度に予定されている予算項目の中で併せて執行することとする。
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