2015 Fiscal Year Annual Research Report
通商港の政治史 ―大陸進出構想と地域振興の実現過程―
Project/Area Number |
25780090
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
稲吉 晃 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70599638)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地方利益 / 日本政治史 / 行政史 / 中央地方関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、通商港という政治空間を対象として、昭和戦前期から占領期にかけての地方利益の成立とその実現過程を解明するものである。従来、日本政治史研究においては地方利益問題は重要な検討対象であったが、それは専ら政党政治の日本的特質や地方政治の構造を解明するための手段として、関心が寄せられたに過ぎなかった。またこのような地方利益論に対する批判も、地方利益と個別利益とを混同したものが多かった。これに対し、本研究では地方利益と個別利益とを峻別し、地域社会内部で「地方利益」が成立する過程を検討した。また、英国(ロンドン港)とドイツ(ハンブルク港)の港湾行政制度の構築過程と比較することで、日本的特質についても検討を加えた。 本研究により、地域社会にとって「地方利益」は必ずしも自明ではなく、従来地方利益の代名詞として扱われてきた社会資本整備でさえ、それにともなう費用負担と、そこから得られる便益に対する理解を共有し地方利益として成立させる必要があることが明らかとなった。したがって、地方利益を成立するプロセスとは、特定の政治課題のステイクホルダーを明確化し、さらにその実現過程を共有させるという意味で、「政策」の成立と裏表の関係にあることも、明らかにした。とりわけ昭和戦前期から占領期の通商港整備においては、第一に大正期以前と異なり内務省土木局がその主導権を発揮することができなかった点、第二に大陸との接続が主要課題となった点、第三に工業港化が進展することで通商港に要請される機能が変質した点、などの特質があることを指摘した。 以上のような、政治的な利益と政策とのあいだにまたがる課題をさらに検討し、通商港のみならず地方利益一般を理解する普遍的な枠組みを提供することが、今後の課題として残された。
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