2013 Fiscal Year Research-status Report
大陸西欧諸国の構造改革と右翼ポピュリズム政党の台頭
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25780098
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
古賀 光生 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 講師 (50645752)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 論文発表 / 学会報告 |
Research Abstract |
本研究の目的は、90年代に欧州各国で実施された構造改革が右翼ポピュリスト政党の支持に及ぼした影響を検討することである。本年度は、研究計画に基づき、構造改革の進展に伴い右翼ポピュリスト政党の支持層と政策にどのような変化が見られたかを検討した。 政策上の変化については、量的な分析と質的な分析の双方で、一定の変化が見受けられた。具体的には、80年代までには新自由主義的な政策を掲げて改革を志向していた右翼ポピュリスト政党が、90年代以降、徐々に改革に否定的な立場を採り、「国民」への社会保障を重視する立場に転じたことが明らかになった。この成果は、平成25年5月に開催された日本選挙学会にて「新自由主義から福祉排外主義へ―西欧右翼ポピュリスト政党の戦略転換」と題して報告され、本年6月に発刊予定の学会誌に同名の論文を発表する予定である。なお、本報告は、日本選挙学会から「優秀報告賞」を受賞した。 また、こうした変化が生じた背景を確認するために、右翼ポピュリスト政党の党内における政策論争を検討した。その際に明らかになったのは、いくつかの右翼ポピュリスト政党が、得票上の合理性に反して、政策変更を選択しなかった事実である。さらに、そのような選択の背景には、新たな政策と党のイデオロギーと対立があった。その上で、各党の内部における対立の帰趨は党の組織構造に左右されるとの仮説を、事例比較を通じて検証した。この成果は『戦略、組織、動員』との題名の論文で、『国家学会雑誌』に掲載された。本研究は、右翼ポピュリスト政党の政策を得票追求のためのものとして位置づける。そのため、得票上有利になるにもかかわらず、政策を変更しなかった政党についての検証が不可欠であった。これらの研究は、今後の分析の基礎となるものであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究全体としては、おおむね、想定通りの進捗状況にある。ただし、想定以上に順調な個所と想定と比べて進捗が進んでいない箇所に分かれる。今後は、進捗が遅れている領域を中心に、研究を進めたい。 前述の政策変化の実証については、想定以上に順調に推移している。今後は、これらの変化を各国の文脈の中に位置づける作業を進める予定である。また、各国における構造改革の進展については、オーストリアとデンマークを中心に、先行研究の確認を進めている。比較対象となるベルギーについても、今後、先行研究の成果を確認する。 研究成果の公開も、当初の想定以上に順調に進んでいる。平成27年度を予定していた欧州の学会における成果報告は、研究助成の開始に先立ち、平成25年3月のイギリス政治学会における発表で実現した。ただし、中核的なアイデアは紹介できたものの、ここで発表した成果は研究の一部である。今後はこれらを活字として公刊に努めたい。なお、この成果をさらに掘り下げた内容について、同年6月の比較政治学においても報告した。 研究計画と比べて、進捗が進んでいないのは、各国の有権者の動向についてである。その原因は、当初想定した以上に、右翼ポピュリスト政党の支持層が多様であるとともに、国ごとの違いも無視できないことが明らかになったためである。ただし、本研究はこうした違いを説明することも目的の一つとしている。そこで、各国の政治的な文脈を確認しながら、各党の支持層の共通性と違いを明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は、おおむね当初の計画通りに進める。ただし、これまでの研究の進捗を通じて、いくつかの点で基礎的な作業の必要性が浮上した。そこで、当初の計画に加えて、以下の2点についても、作業を進めたい。 まず、右翼ポピュリスト政党の性質規定である。本研究は、オーストリア、デンマーク、ベルギーの構造改革が右翼ポピュリスト政党の台頭に及ぼした影響を検討するものであるが、これらの諸国の右翼ポピュリスト政党は、それぞれ、独自の特徴を持つ。そのため、これらの特徴の違いを考慮することなしに比較することは難しい。具体的には、党が登場した歴史的な経緯や特定の地域におけるエスノ・ナショナリズムとの関係など、それぞれの党が他党にない特徴を有している。この点を整理するために、他国の右翼ポピュリスト政党も含めて、これらの党の性質を整理・分類したうえで、各党の特徴が支持伸長とどのように結びついたのかを明らかにする。 次に、右翼ポピュリスト政党の発展のサイクルを整理することである。本稿は、冷戦の終結や欧州統合の進展に着目して、90年代における構造的な改革を重視する。このような時期区分は、近接比較のためには不可欠な条件の統制である。しかし、各国で右翼ポピュリスト政党がどのような段階でこの時期を迎えたのかは、均一ではない。具体的には、党成立から時間経過や初期の党勢拡大と構造改革期の前後関係が、各党で微妙に異なる。これらの条件が各党の支持にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするために、右翼ポピュリスト政党の各発展サイクルにおける戦略的な行動を検証する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画段階では、海外で資料収集を行う予定であったが、必要な資料の多くがインターネットを活用して国内からも入手可能であったため、渡航費がかからなかったため、予算に余裕が生じた。 渡航費用に替って、デンマークとノルウェーからの資料の取り寄せに予算を活用する予定である。
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