2014 Fiscal Year Research-status Report
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25810142
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 崇史 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (40532908)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 超伝導 / 表面修飾 / フォトクロミズム / 光磁気相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導ダイヤモンドの特性を光化学反応を利用して制御することを目的として研究を遂行した。そのために、超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド (BDD) を気相合成し、その表面に光応答性物質を固定化することとした。 第1の取り組みとして、光照射によって幾何構造が可逆に変化するアゾベンゼン化合物をBDD表面に固定化させた、無機-有機ヘテロ界面を構築した。その際に、BDDが優れた電極として機能することを利用し、BDD表面に末端アルキン部位を有する化合物を電解還元反応によって導入し、アルキン部位に選択的に環化付加するアジド基を分子末端に有するアゾベンゼン化合物を反応させた。その結果、一連のプロセスにおいてもBDDの超伝導特性は保持されていることがわかった。また、電気化学測定を中心とした評価によって、BDD表面に固定化されたアゾベンゼン化合物は最密充填に近い密度で単分子膜を形成しており、かつ光照射によって可逆的に異性化することがわかった。超伝導特性に関しては、アゾベンゼン化合物のフォトクロミズムに伴って臨界電流密度が可逆に変化し、この際の光増幅率は55%に及ぶ結果が得られた。 第2の取り組みとして、光照射によって常磁性から強磁性へ磁気相転移を示すCo-Feプルシアンブルー類似体 (Co-Fe PBA) をBDD表面に固定化させた、無機-無機ヘテロ界面を構築した。あらかじめ液相合成したCo-Fe PBA の分散液をBDD表面に滴下するという簡便な手法を用いた。その結果、Co-Fe PBAとのヘテロ界面形成によってBDDの上部臨界磁場が減少することがわかり、さらに、Co-Fe PBAの光磁気相転移に伴って臨界電流密度が可逆に変化する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、超伝導特性を化学的に制御することを目的とし、特に、光応答性物質とのヘテロ界面を形成することによって、基盤物質であるホウ素ドープ型ダイヤモンド (BDD) の超伝導特性と光応答性物質の物性を協奏的に作用させることを最終目標としている。 平成26年度は、当初の研究計画に基づき、光応答性物質とのヘテロ界面の形成と超伝導特性の能動的制御に関する検討を行った。 光応答性物質として、フォトクロミズムを示すアゾベンゼン化合物を用いた場合では、光照射に伴って、超伝導を示すBDDの臨界電流密度が可逆に変化する結果が得られた。特に、この際の光増幅率は55%に及び、一連の結果を学術雑誌 (ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 887-894.) に発表した。 また、光応答性物質として、光磁気相転移を示すCo-Feプルシアンブルー類似体 (Co-Fe PBA) を用いた場合では、BDD表面に固定化したCo-Fe PBA磁性体の影響によって、BDDに実効的に作用する磁場が変化し、BDDの上部臨界磁場が減少することがわかった。さらに、光照射によってCo-Fe PBAの磁気相転移を促したところ、BDDの臨界電流密度が可逆に変化する結果が得られた。この一連の結果は学術雑誌 (Carbon) に投稿し、現在のところ査読中である。 以上のように、超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンドと光応答性物質とのヘテロ界面形成によって、BDDの超伝導特性を光化学反応を介して能動的に制御できることを2例見出し、1例は学術論文に発表、もう1例は論文投稿中という段階に達したことから、本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成27年度は以下に挙げるようなポイントに関して重点的に研究を遂行する。平成26年度において、超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド (BDD) と光応答性物質とのヘテロ界面形成によって、超伝導特性の1つである臨界電流密度を可逆に光制御することを達成した。 そのうち、フォトクロミックなアゾベンゼン化合物をBDD表面に固定化させた、無機-有機ヘテロ界面に関して、臨界電流密度の可逆な光変化に関する詳細なメカニズムを検討してゆく。その際に、ヘテロ界面の電子状態変化に着目し、走査型トンネル分光法を用いることとする。特に、BDD表面に固定化するアゾベンゼン化合物の分子数を変化させたサンプルを作りわけることによって、界面の電子状態変化を定量的に議論してゆく。ここで、本研究課題で提案している、電気化学反応を取り入れた有機カップリング反応を利用することによって、カップリング反応に必要な触媒の生成量を、反応に用いる電気量 (通電量) によって制御することが可能であるため、アゾベンゼン化合物を表面に固定化する反応の進行 (収率) を電気化学的に制御できる可能性がある。したがって、まずは、電気化学を組み合わせた有機カップリング反応によって反応収率を精度よく制御できるかどうかを検討し、首尾よく目的が達成できた場合は、系統的に表面分子数を作りわけたサンプルに関して、光照射に伴った界面電子状態の変化を検討してゆく。 以上のような取り組みは、フォトクロミック化合物による物性の光制御において明らかとされてこなかった、フォトクロミック化合物の表面分子数と物性の変化率に対する相関関係を提示することにつながるものであると考えている。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、当初の計画で計上していた支払い請求額を上回る支出となったものの、平成25年度からの繰り越し分により、トータルとしては平成27年度に約44万円を繰り越す結果となった。これは、当初の計画以上に研究が進展したため、平成26年度の後半は学術雑誌への投稿論文の執筆にある程度の時間を割く必要があったためである。また、当初の計画よりも学会参加を控えたことも一因である。 以上が、当初の計上額よりも支出額が減り、次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の使用計画は以下の通りである。 第1は、本研究課題の目的を達成するために必要なサンプル合成に関わる物品費である。また、サンプルの物性評価を共同研究という形で遂行することを視野に入れているため、出張旅費が第2の支出にあたる。
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