2014 Fiscal Year Research-status Report
嗅神経細胞の分化・運命決定機構における転写因子Bcl11bの機能
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25840085
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
榎本 孝幸 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 東工大特別研究員 (70635680)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 細胞分化 / 転写因子 / 細胞運命決定制御 / エピジェネティクス / 嗅覚システム / 神経軸索投射 / 細胞核内構造 / 発言制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究対象である嗅覚システムは匂いを感知する感覚神経系である。動物の鼻腔内には匂い分子を検出する嗅神経細胞が存在しており、それらは外環境からの膨大な種類の匂い分子に対応するため、1000種類を超える嗅覚の受容体遺伝子の中から1種類のみを発現することによって多様な個性を持つ細胞集団として産生される。本研究課題では、嗅神経細胞がどのような制御メカニズムによって多様な細胞集団として産生されるのか明らかにすることを目指している。 研究代表者らは、これまでに転写因子Bcl11bが嗅神経細胞の産生制御メカニズムに中心的な役割を果たしていることを突き止めている。平成25~26年度の研究では、嗅神経細胞の分化におけるBcl11bの生体内での機能を明らかにするために、Bcl11bの遺伝子発現解析とその機能欠失型変異及び、機能獲得型変異マウスの表現型解析を行った。その結果、Bcl11bが嗅神経細胞の産生を制御するメカニズムにおいて細胞自律的に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。具体的には、大きく2種類に分類される嗅神経細胞の片方の細胞集団にのみBcl11bが発現し、機能することによって、2種類の嗅神経細胞の産生バランスを制御していることを解明した。このことから、膨大な種類の匂い分子を検出する嗅神経細胞集団の多様性獲得メカニズムの新たなモデルを提唱することが可能となった。既に、国際学会の招待講演で本研究の成果についての発表を行った。近々に、国際科学雑誌に論文を投稿するために準備している。 研究実施計画の残り1年間では、Bcl11bが重要な役割を担っている嗅神経細胞産生制御メカニズムにおける分子レベルでのより詳細な解析を実施する。最終的に、転写因子Bcl11bがどのような遺伝子群を、どのような転写因子と共に、いつ、どのように、それらの遺伝子発現を制御しているのか明らかとし、嗅神経細胞産生制御メカニズムにおけるBcl11bの役割を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題である、匂いを感知する嗅神経細胞の分化・運命決定における転写因子Bcl11bの機能とその分子機構の解明のために、①嗅神経細胞分化・運命決定におけるBcl11bの機能解析、②嗅神経細胞におけるBcl11bの下流遺伝子の網羅的同定、③Bcl11bによるエピジェネティックな遺伝情報発現の制御機構の解析について、平成25年度から平成27年度までの3年間で実施する計画である。平成26年度末時点で、実験遂行上の問題点により進展が遅れている項目と、平成27年度の実験計画で既に実験データを得ている項目がある。 平成25~26年度の研究計画の実施によって、上記項目①嗅神経細胞分化・運命決定におけるBcl11bの機能の解明のための、機能欠損型及び、機能獲得型変異マウスの表現型解析を予定通りほぼ完了し、転写因子Bcl11bが大きく2種類に分けられる嗅神経細胞の産生バランスを制御していることを解明した。本研究課題の遂行によって明らかとなった嗅神経細胞集団の多様性獲得メカニズムの新たなモデルについて、平成26年度に1件の国際学会の招待講演を含む計2件の学会発表を行った。現在、論文発表のための準備を行っており、大学のホームページ等でプレスリリースも行う予定である。 上記項目②について、研究を進める上で新たに生じた問題点を解決するためにBcl11b発現細胞の濃縮を試みているが、現時点では成功しておらず、Bcl11bの下流遺伝子の同定には至っていない。対策を今後の推進方策に記述する。上記項目③について、既に主要な実験データを取得しており、平成27年度で残りの解析を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
残り1年間で、分子レベルにおけるより詳細なBcl11bの機能を明らかにするために、上述した②嗅神経細胞におけるBcl11bの下流遺伝子の網羅的同定、③Bcl11bによるエピジェネティックな遺伝情報発現の制御機構の解析を引き続き実施する。 ②嗅神経細胞におけるBcl11bの下流遺伝子の網羅的同定の推進方策 Bcl11bは転写因子として標的遺伝子の発現調節を行っており、これらの標的遺伝子の同定はBcl11bの作用機構を解明するために必須となる。そこで、クロマチン免疫沈降法と次世代シーケンサーを用いて、マウス嗅覚器官におけるBcl11b結合ゲノム領域の網羅的な同定を行う。現段階では、当初予定していた嗅覚器官全体を解析に用いると目的の細胞の割合が少ないためデータ取得が困難となっている。そこで、多くの細胞でBcl11bを強制的に発現する変異マウスを既に作成しており、この変異マウスの嗅覚器官を用いて解析を進める予定である。 ③Bcl11bによるエピジェネティックな遺伝情報発現の制御機構の解析の推進方策 Bcl11bは標的遺伝子のゲノム領域のクロマチン構造を変化させることで、その遺伝子発現を制御すると考えられている。既に、Bcl11bの推定される標的遺伝子座のクロマチン構造の解析を行っており、今後、Bcl11bと共に恊働する転写因子群を解析する予定である。以上の研究計画の推進によって、転写因子Bcl11bがどのようにして嗅神経細胞の産生や分化を制御しているのかを明らかにする。
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