2014 Fiscal Year Research-status Report
上皮集団遊走において先端細胞に高い運動性を与える分子機構
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25860215
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
栗栖 修作 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センター, 学術研究員 (40525531)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | IRSp53 / Eps8 / 浸潤 / 上皮極性 / 集団遊走 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では上皮集団遊走において、頂端膜の構造的破綻がリーダー細胞の浸潤能を高める、との仮説を検証することを目的としている。前年度の研究からアクチン細胞骨格と脂質膜のアンカー分子であるIRSp53が浸潤能のスイッチ分子として働くことが示唆されていた。すなわち、IRSp53は通常は上皮細胞の頂端膜の構成因子であり、細胞が基底膜を破って浸潤する際には浸潤突起に移行して浸潤を促進する働きがあるというデータを得ていた。 本年度はIRSp53の役割について詳細に解析を行った。前年度のLC-MS/MS解析の結果から、IRSp53は腎上皮細胞内でEps8と複合体を形成していることが分かっていた。Eps8のノックダウンを行ったところ、頂端膜に局在するIRSp53は細胞質へと移行し、上皮極性に乱れを生じた。同様の表現型はEps8に結合できないIRSp53変異体を発現した場合も観察された。このことから、Eps8はIRSp53を頂端膜にトラップし、上皮形態を維持することが分かった。しかし、Eps8のノックダウンは上皮極性を乱すと同時に、浸潤能も抑制した。このことは、Eps8はIRSp53を頂端膜にトラップしているだけではなく、浸潤突起部でもIRSp53と協働(あるいはそれぞれ独立して機能)していることを示唆しており、単純にIRSp53とEps8との結合の有無が細胞の浸潤性を決定している訳ではないようだ。興味深いことに、Eps8とIRSp53の結合はリン酸化や膜脂質分子といったエフェクターによる制御を受けていることが複数の実験から示された。したがって、これらのエフェクターが上皮細胞の浸潤性を左右し、リーダー細胞の振る舞いを規定していると考えられる。 以上の結果は原著論文として投稿準備を進めている。また、今回得られた知見やそこから派生した実験結果は二報の論文として公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、上皮細胞集団遊走にみられるリーダー細胞がどのようにして遊走性・浸潤性を獲得するかを解明することにある。これまでの実験結果から、Eps8/IRSp53複合体は非遊走時には頂端膜構造を維持し、上皮形質を安定化する働きがあることが分かった。さらに、リーダー細胞が遊走する時にはIRSp53は頂端膜から離れ、浸潤突起に移行して遊走を促進する作用があり、IRSp53が上皮と間葉形質を決めるスイッチ分子であることを示すことができた。すなわち、リーダー細胞の形質を決定する鍵分子を同定できたという点で、本研究の目的はある程度達成されたと言えるだろう。 一方で課題も残る。IRSp53は上皮形質の維持と浸潤形質の促進という二面的な役割があるが、この二つの作用の切り替えの分子機構に不明点がある。当初、Eps8とIRSp53の結合の有無がこの切り替えに関与していると考えていたが、Eps8も浸潤に必要な因子であることが分かり、当初の仮定ほど単純ではないようだ。しかし、Eps8のリン酸化によってIRSp53との結合が制御されていることが分かってきており、このリン酸化がIRSp53の機能スイッチを行うと予想される。 また、頂端膜の構造的破綻を引き起こす人為的な操作、すなわちNHERF1, Myosin-IA, Crumbs3などのノックダウン、はIRSp53の頂端膜から乖離させ、浸潤を促進すると考えられるが、これについてはまだ解析を行っていない。これらの分子のノックダウンでリーダー細胞を誘導できるかどうかを調べることで最終的な目標である、「頂端膜の構造的破綻と浸潤性の関係」を明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、上述したとおり、NHERF1, Myosin-IA, Crumbs3などのノックダウンを行い、頂端膜の構造的破綻を人為的に誘導した時にリーダー細胞が誘導されるかどうかについて調べる。おそらくリーダー細胞ではIRSp53が頂端膜からリリースされた結果、浸潤性が持続されると考えている。このことが上皮に特徴的な集団遊走の分子背景となっていることを示すことができれば、本研究の目的は達成されるだろう。 さらに、Eps8のリン酸化によるIRSp53の制御にも着目して研究を進めたい。まずは、Eps8のリン酸化部位を同定し、リン酸化がIRSp53との結合のON/OFFを行っていることを明らかにする。これにより、IRSp53の機能切り替えの分子機構を解明することができるだろう。また、Eps8のリン酸化を担うキナーゼや上流シグナルを同定することで、上皮の頂端膜の乱れや上皮極性の喪失が起こる新たなメカニズムが解明される可能性がある。特に、上流シグナルとして腎細胞癌の憎悪因子となるVEGFや腎癌を引き起こすK-ras, PI-3キナーゼなどの癌遺伝子がEps8のリン酸化を亢進するかどうかを調べ、腎癌悪性化における集団遊走の寄与を明らかにしていきた。 本年度は最終年度であるため、時間の許す限り研究を進め、得られた結果を原書論文として公表することを目標とする。
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Causes of Carryover |
平成25年度までの所属である神戸大学大学院医学研究科での雇用の継続が難しくなり、平成26年4月から現所属のバイオシグナル研究センターに再就職した。さらに、平成26年5月からは現在の所属研究室の学内の引越があり、引越作業や、引越し先でのセットアップに時間を要した。このため研究計画が遅延し、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に行う予定であった細胞の浸潤性を調べる実験を次年度に行うこととし、その費用として75万円を見込んでいる。また、今年度は学会等での成果発表を十分に行うことが出来なかったため、次年度は国際学会に参加し、本課題の研究成果を公表する予定である。また、最終年度となる次年度は研究成果を論文としてまとめ国際誌に投稿する。これら成果発表の費用として40万円を見込んでいる。
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Research Products
(3 results)