2013 Fiscal Year Research-status Report
CD36欠損症における心筋症の発症機序解明と治療法開発
Project/Area Number |
25860598
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中谷 和弘 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (50648813)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 心筋エネルギー代謝 / CD36 / 心筋症 / iPS細胞 |
Research Abstract |
脂肪酸トランスポーターであるCD36を欠損するCD36欠損症における心筋症の発症機序解明と治療法の開発を目的として、CD36欠損マウス(以下KOマウス)あるいはCD36欠損症患者iPS由来心筋細胞を用いた検討を行った。 A. KOマウスにおける心負荷時の心不全発症の検討: 野生型マウス(以下WTマウス)とKOマウスを対象とし大動脈縮窄手術 (以下TAC) を実施し、心負荷による心不全発症を検討した。TAC後 12週間経時的に心エコーで観察すると、左心室壁肥厚の程度はWTマウス,KOマウス間で同等であり、左心室内腔は、WTマウスでは経時的拡大は認められなかったもののKOマウスでは徐々に内腔が拡大し、TAC後12週においてKOマウスではWTマウスに比し有意に左心室収縮率の低下を認めた。TAC後12週の肺重量はKOマウスではWTマウスに比して有意に重く、左室収縮不全による心不全を認めた。TAC後12週において、心重量はKOマウスでWTマウスに比して有意に重く、心筋肥大のマーカーであるANP・BNPの遺伝子発現がKOマウスではWTマウスに比較して有意に亢進していた。またTAC後12週において、線維化マーカーの遺伝子発現がKOマウスでWTマウスに比し亢進しており、組織学的でもKOマウスでは有意に強い線維化を認めた。これらの所見からKOマウスは、心負荷時に、より強い心肥大・心筋線維化を呈しやすく、左心室収縮不全から心不全に至ることが明らかになった。 B.患者iPS細胞由来心筋細胞を用いた検討 :計4例のCD36欠損症患者(心筋症なし2例、心筋症あり2例)を対象とした。心筋症の合併がないCD36欠損症患者(1例)由来iPS細胞、および拡張型心筋症合併CD36欠損症患者1例のiPS細胞樹立を完了している。その他の2例のCD36欠損症患者については末梢血T細胞のストックは作成済である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の検討によりCD36欠損状態では、心負荷時に心肥大および心筋線維化を来しやすく、左心室収縮不全に至ることが明らかになった。CD36欠損状態において心臓圧負荷を行った際の心機能変化を詳細に解析した報告はこれまでになく、CD36欠損症患者の予後改善を目指すために有用な情報となる。しかしながら現段階では様々な代謝的・機能的メカニズムの集合体である心機能がどのように変化したかについてその機序の解明は十分とは言えず、心筋代謝評価などを中心とした、より詳細な解析を行う必要がある。また、患者iPS由来心筋細胞を用いた実験は、4名のCD36欠損症患者をエントリーし、2名のiPS細胞樹立に成功している。しかし、心筋への分化誘導、さらに得られた心筋細胞の解析を実施する必要があり今後も引き続き研究の継続が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
A. KOマウスにおける心負荷時の心不全発症の検討:今後も継続的に様々な視点からCD36欠損マウスで圧負荷時に高度の心機能低下を呈するメカニズムの解明を行う。具体的な方法としては、脂肪酸・糖代謝を小動物用PETにより解析する。また心筋のエネルギーリザーブを表す心筋組織内のクレアチンリン酸, ATP,ADP,AMPの含量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量し評価する予定である。さらにメタボローム解析を行い心筋代謝産物の解析を行う。また、心肥大、心筋代謝に関連した経路のタンパク、リン酸化をウェスタンブロット法で解析する。これらの解析結果を統合し、CD36欠損マウス心筋での脂肪酸代謝変化に伴う心不全の病態解明を目指す。さらに代謝性心筋障害に対する治療の介入点を明らかにする。 B. 患者iPS細胞由来心筋細胞を用いた検討:現在までに樹立ができていない2名のCD36欠損患者のiPS細胞樹立を行い、これまでに樹立が成功している2名のiPS細胞を含めて、分化転換技術を利用し心筋への分化を行う予定である。心筋細胞への分化が完了した後、CD36欠損の病態を反映しているかどうか、すなわち脂肪酸の取り込み低下がみられるかどうかについてラジオアイソトープを用いた実験で評価する。また心筋症合併の有無によりそれぞれのiPS由来心筋細胞の表現型にどのような差があるかを、分子生物学的解析、電気生理学的解析などで検討する。さらにiPS由来心筋細胞に低分子化合物ライブラリーを添加し、心筋症合併患者iPS由来心筋細胞の異常を改善しうる化合物をスクリーニングし、CD36欠損症の心筋症患者の治療法開発を目指す。 これらの解析から得られた成果を国内学会だけではなく国際学会でも積極的に報告し、広く社会に発信する。
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