2013 Fiscal Year Research-status Report
国連安全保障理事会による文民の保護措置とその法的評価
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25870105
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
清水 奈名子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (40466678)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国連安全保障理事会 / 文民の保護 / 国際人道法 / 国際人権法 / 国際刑事裁判 / 平和維持活動 / 保護する責任 |
Research Abstract |
本研究では、安保理による文民の保護措置が、加盟国によって必ずしも既存の関連国際法規範の履行確保のための措置として認識されてはおらず、むしろ安保理による一方的な義務の設定とその強制のための介入行為と見做されているがゆえに、実行への支持がまとまらないとの仮説を立て、その検証を行っている。すなわち、政策論として推進されるなかで十分に検証されてこなかった、安保理の実行上の文民の保護と、関連国際法規範が規定する文民の法的保護の異同を確かめ、加盟国間の意見の対立を招いている論点を明らかにすることを目的としている。両者の異同を確かめる上で重視する点は、①保護の対象である「文民」概念の包摂範囲と、②保護のためにとられる措置の法的位置付けである。 上記の2点を明らかにするために、25年度は保護の対象となる文民の範囲の明確化を中心に作業を進めた。国際法上の「文民」とは、1977年の二つのジュネーブ条約追加議定書によれば、戦闘に直接参加しない非戦闘員を指す。しかし、「保護する責任」の実施の前提となるジェノサイドや人道に対する罪の犠牲者には、非戦闘員だけでなく戦闘員や政府関係者も含まれることが近年の国際刑事裁判の判例で示されており、その保護対象範囲には相違が存在している。またリビアやシリアの事例でも、戦闘に参加している反政府勢力が保護の対象となるのか否かが議論されており、加盟国の支持がまとまらない原因の一つとなっており、概念の整理が必要とされているため、安保理が保護対象とする「文民」の範囲と、関連国際法規範が想定する「文民」の範囲にどのような異同があるのかを検証するため、25年度は主に安保理の決議、議事録、議長声明等の関連文書の検証を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、研究計画において予定していたように、以下の二つの作業を中心に行った。 (1) 文民の保護任務に関する安保理の審議内容と決議文言、国連関連文書の検討を行った。対象とした一次資料は、1999年以降の安保理における議事録、議長声明、決議文書に加えて、2011年以降国連PKO局が発行している平和維持活動要員のための文民の保護のための訓練マニュアルである。これらの一次資料中の文民概念を抽出し、事務補助の支援を受けて提唱主体別(加盟国別、国連機関別、等)に文言のリストを資料として作成した。 (2) 文民の保護のための安保理の実行に関する先行研究の分析 一次資料の分析結果を踏まえて、国内外における先行研究を概観すること目的に、国際組織法ならびに国際機構論両分野における、文民の保護措置の法的評価に関する研究を整理し、分析した。その際には、文民の範囲に注目するだけでなく、安保理が加盟国の法的義務の履行を強制するという保護措置の効果が、法的にいかなる評価を受けているかについて、安保理による「国際立法」論や「国際立憲主義」に関する先行研究も含めて検証してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は国際刑事裁判判例における文民概念の包摂範囲の検証作業を中心に、研究を進めていく予定である。 (1) 国際刑事裁判における判例の分析と整理 ICTY、ICTR、ICCにおける事項管轄のなかでも、「保護する責任」に関連するジェノサイド罪と人道に対する罪が認定された判例を中心に、文民概念の包摂範囲と禁止される加害行為がどのように解釈されているかを整理する。判決文の中から文民の範囲ならびに加害行為に関わる文章を抽出し、事務補助の支援を受けて、判例別に該当する文言のリストを資料として作成する。 (2) 国際人道法、刑事法関連の先行研究の分析 判例の分析結果を踏まえて、先行研究の整理を行う。その際には、特に人道に対する罪に関連して、攻撃対象となる「文民たる住民」とは、その公的な地位にかかわらず非人道的な行為が向けられた時に保護が与えられてない状況にある者を意味するという、戦闘員と文民の区別に依拠しない新たな議論の動向に留意して分析し、1)で作成した資料を比較しながら、文民概念が1977年のジュネーブ条約第一・第二追加議定書上の規定内容からいかに発展してきたのかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一部予定していた謝金を伴う作業を、研究代表者自らが実施したため次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、26年度に文言の整理、入力作業等を謝金を支払って依頼するための予算に充当する。
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