2014 Fiscal Year Research-status Report
国連安全保障理事会による文民の保護措置とその法的評価
Project/Area Number |
25870105
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
清水 奈名子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (40466678)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 国連安全保障理事会 / 文民の保護 / 国際人道法 / 国際人権法 / 国際刑事裁判 / 平和維持活動 / 保護する責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は当初、国際刑事裁判の判例を中心に、文民概念の包摂範囲と禁止される加害行為がどのように解釈されているかを整理する予定であったが、ISIS等による虐殺行為が深刻化し、安保理による強制的な措置を求める議論が国際的に高まったことを受けて、27年度に予定していた以下の研究を前倒しして実施することとした。 すなわち、1999年以降実施されている、文民の保護のために武力行使権限を授権された活動による平和維持活動(PKO)型と、安保理による強制措置を含む「保護する責任」型の、二種類の実行の法的評価を行っている先行研究を整理し、加盟国による支持の有無と法的評価の関係を分析する作業を中心に進めた。前者にあたるPKO型の文民の保護活動の特徴は、停戦合意が成立した後に派遣された部隊による保護活動であることから、国際的または非国際的な武力紛争の存在を前提として文民の保護を規定する1949年のジュネーブ諸条約や1977年の追加議定書等の国際人道法上の履行確保行為というよりも、むしろ平時の国際人権法上の領域国政府の義務を代替する活動であると位置づけられる。他方で、文民の保護型の事例としては、2011年のNATO軍によるリビア空爆や国連PKOであるUNOCIとフランス軍によるコートジボワールでの空爆作戦の事例のように、内戦状態での領域国政府による文民の保護を求めた活動は、非国際的な武力紛争を前提とした1977年のジュネーブ第二追加議定書に規定された「敵対行為に直接参加しない者」としての文民の保護が求めていたと考えられよう。しかし後者に関して問題となるのは、文民の保護を目的としつつも、保護しない勢力への空爆という戦闘行為が安保理による武力行使授権によって行われたことであり、こうした手段が国際人道法の履行確保手段として加盟国によって受け入れられたと評価する先行研究は見当たらない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「保護する責任」に関連した先行研究、安保理議事録や決議等の一次資料に加えて、国際人道法と国際人権法の交錯に関する先行研究を用いて分析を進めてきた。ISIS等による文民への迫害や虐殺行為に関して国連安保理が有効な対応ができないなかで、国際法によって要請されている文民の保護が、国際政治の実行上はなぜ実現しにくいのかについて、学際的な議論が必要であると考えたことから、駒場国際政治ワークショップ、日本感情心理学会などにおいて研究報告を行ったほか、学内による異分野融合研究グループや全国の「保護する責任」研究者をつなぐ「R2Pネットワーク」研究会等にも参加し、隣接分野の研究者との意見交換を積極的に行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に27年度に予定していた研究内容を前倒しして取り上げたことから、当初26年度に予定していた以下の内容を中心に実施し、最終年度として研究成果をまとめる。 (1) 国際刑事裁判における判例と先行研究の分析と整理(27年4月-9月) ICTY、ICTR、ICCにおける事項管轄のなかでも、「保護する責任」に関連するジェノサイド罪と人道に対する罪が認定された判例を中心に、文民概念の包摂範囲と禁止される加害行為がどのように解釈されているかを整理し、同時に関連する先行研究の整理を行う。その際には、特に人道に対する罪に関連して、攻撃対象となる「文民たる住民」とは、その公的な地位にかかわらず非人道的な行為が向けられた時に保護が与えられてない状況にある者を意味するという、戦闘員と文民の区別に依拠しない新たな議論の動向に留意して分析し、文民概念が1977年のジュネーブ条約第一・第二追加議定書上の規定内容からいかに発展してきたのかを明らかにする。 (2)25、6年度に行った安保理の実行上の整理と、今年度に実施する国際人道法・刑事法上の整理の結果を比較検討し、安保理の実行が果たして既存の国際法規範の履行確保として評価できるのか否かを検証したうえで、加盟国の支持が分かれる原因となる問題を整理する。
|
Causes of Carryover |
研究計画の変更により、平成26年度に予定していた国際刑事裁判判例関係の研究を27年度に実施することにした結果、資料作成用の謝金のうち26年度予定額を支出しなかったために残額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度に判例研究と関連資料を作成する計画を立てており、資料作成用の謝金として支出を予定している。
|