2013 Fiscal Year Research-status Report
社会的孤立および運動の質がアルツハイマー病モデルラットの認知機能に及ぼす影響
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25870587
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ibaraki Prefectural University of Health Science |
Principal Investigator |
角 正美 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 嘱託助手 (30646261)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アルツハイマー病モデルラット / 社会的孤立 / 参照記憶障害 |
Research Abstract |
近年解析が著しい遺伝子改変マウスなどのアルツハイマー病(AD)モデル動物を用いた基礎的研究では、主に作業記憶やエピソード記憶の障害をもってADの認知機能の障害を論じてきた。一方、記憶の機能的側面において作業記憶と対立する概念である“参照記憶”については報告が少ないだけでなく、モデル動物の行動解析で用いた課題が、ヒトADの臨床像に則しているとは言い難い状況である. 本研究では,アミロイドβ脳室内微量持続注入によるADモデルラットの居住型迷路課題における参照記憶を評価することで、ヒトADの病初期からみられる障害の一つである場所見当識障害について検討している。 ADなど認知機能障害を呈する疾患に対し、社会的な孤立状態は病状の悪化を引き起こす原因の一つであると考えられている。動物実験では単独飼育による生体への影響を検討する際、離乳後早期から単独飼育を行う研究が多く行われているが、性成熟後からの単独飼育が認知機能にどのような影響を及ぼすかについては不十分な検討しかなされていない。社会問題である社会的孤立状態は、成人以降の生活環境を指しており、動物実験において再現するのであれば、少なくとも性成熟期以降の動物を用いた検討が必要であると考える。 平成25年度は、15週齢以降の成熟ラットを80日間実験飼育(単独飼育群あるいは群飼育群)した。その後、Aβ脳室内持続投与を行い、居住型迷路課題における新規学習能力および参照記憶について検討を行った。結果として、Aβ1-42投与の有無、飼育環境の違いは、新規学習能力に影響は及ぼさないが、参照記憶障害の出現時期や程度に違いをもたらすことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は「社会的孤立がアルツハイマー病モデルラットの認知機能に及ぼす影響」について検討した。 平成25年度前半は、より信頼性の高い実験結果が得られるよう、行動解析ソフトを導入した。これに伴い、居住型迷路内部を灰色から黒に塗り替えたり、照明による照度を調整するなど、現行の実験環境の変更に時間を要した。実験環境整備後、後述の実験を開始した。 15週齢のラットを単独飼育と群飼育(2匹/ケージ)の2群に分け、実験飼育開始80日後にAβ1-42(統制群はAβ42-1)脳室内微量持続投与手術を行い、2週間後に居住型迷路学習を行った。4日間の学習において、学習能力にAβ1-42投与群とAβ42-1群、および飼育環境の違いによる影響は見られなかった。 学習2週間および5週間後に参照記憶テストを行い学習直後の成績と比較したところ、Aβ1-42投与+単独飼育群は2週間後から明らかに成績低下がみられ、5週間後にはAβ1-42投与+群飼育群、Aβ42-1投与+単独飼育群においても成績の低下がみとめられた。これらの結果は、単独飼育状態がAβによる参照記憶障害の出現を早めるだけではなく、単独飼育のみでも認知機能の低下を引き起こすことを示唆している。 平成25年度は、居住型迷路課題を用いた行動実験のみが終了し、80日間の単独飼育が参照記憶に影響することがわかった。しかし、単独飼育が群飼育と比較し、生体に対しどのような変化を及ぼしているのかについてはわかっていない。今後より考察を深めるため、組織化学的な解析を行うに際して、解析方法や抗体の選定を行っていく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に実験を行った被験体の脳組織を用い、脳内アミロイドβ沈着の程度や神経細胞障害を免疫組織化学的手法で解析する。加え、反応性アストロサイトや活性化ミクログリアを調べることで、組織内の炎症性反応がアミロイドβ沈着の程度や認知機能障害と関連があるかどうかを検討する。 平成25年度に得られた実験結果では、単独飼育のみでも認知機能低下を引き起こすことが示唆された。今後は、単独飼育が居住型迷路における参照記憶だけではなく、作業記憶やエピソード記憶にも影響を及ぼすかどうかについて調べる。また、平成25年度は単独飼育期間を80日と設定したが、さらに長期間の単独飼育が認知機能にどのような影響を及ぼすか検討する。 加え、平成26年度は「運動の質が認知機能に与える影響」を調べるため、回転かご付きケージで自発的運動を行った群、および自発運動群と同程度の強制的運動を行った群における、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)発現量の比較、作業記憶および参照記憶課題遂行能力の比較を行う。この実験の結果を踏まえ、平成27年度には、運動の質(自発的運動・強制的運動)がアルツハイマー病モデルラットの認知機能に及ぼす影響について検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験開始当初は、単独飼育期間を60日と設定していたが、より顕著な単独飼育の影響を確かめるため、飼育期間を80日間に延長したため、平成25年度中に組織化学的解析まで行えなかったことが理由である。 平成26年度は、平成25年度に購入した行動解析ソフトを使用し、行動実験を行っていく。助成金は、行動実験を行う被験体(Wistar-Imamichiラット)の購入、およびアミロイドβ脳内持続投与用のカニューレの購入費用として使用する。加え、組織化学的検討に必要な抗体(および解析キット)の購入費用に充てる。
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Research Products
(4 results)