2016 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後イギリスにおける女性団体の海外支援活動と脱植民地化についての研究
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25871013
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Research Institution | Shigakukan University |
Principal Investigator |
岡本 宏美 (溝上宏美) 志學館大学, 人間関係学部, 講師 (10464215)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植民地 / ボランティア団体 / ソーシャル・デヴェロップメント / 女性 / イギリス / 脱植民地化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は妊娠、出産で中断した研究を再開し、平成27年4月の休職時に整理途中であったイギリスのナショナル・アーカイブの史料(植民地でのボランティア団体の支援活動に関する植民地省の文書)の分析をすすめた。同時にNGOと植民地/第三世界におけるコミュニティ形成活動との関係に関する先行研究の調査も行った。本研究が対象としている第二次世界大戦後の時期は「福祉の専門化」が起こった時期であるが、史料分析の中で、①イギリスの植民地における社会福祉の促進を担うワーカーの訓練については、第二次世界大戦中からLSEを中心とする高等教育機関が主導していたこと、②植民地での社会福祉政策に関しては、保護観察や未成年受刑者の扱いの問題への対応→問題を抱えた人々を救済する社会福祉の必要→社会問題の予防としてのコミュニティー形成という形で植民地省、および植民地政府の認識が変化していったこと、それにつれて植民地省内の委員会も再編されたこと、③コミュニティ形成にかかわるソーシャル・デヴェロップメントという概念は、イギリス植民地に関しては1948年ごろから登場し、1950年代には社会科学の分野で手法としてイギリスの政策に取り入れられること、④コミュニティ形成が植民地や第三世界の国々の開発援助の主眼となってくる中で、女性や若者が重要なアクターとして浮上したこと、⑤コミュニティ形成を重視する動き、およびその担い手として女性に注目する動きは、イギリス単独のものではなく、国連の経済社会理事会からの要請に応じるものでもあったこと、⑥イギリス植民地についていえば、ケニアやマラヤにおけるコミュニティ形成は、政治的な反英運動、独立運動の抑制と現地社会の懐柔という目的があったことなどが明らかになった。 ただ、乳児の子供を抱えながらであったため、出張などはできずに終わり、報告などの形で具体的な成果は残せなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成28年4月に復職したが、乳児の世話と病気対応、通院などで復職後しばらくは授業などの業務をこなすだけで精一杯となり研究がすすめられなかった。子供が1歳を過ぎた年度後半になってようやく史料の分析に取り掛かる時間をとることができるようになったが、単独で子育てを担っているという事情もあり、研究会の報告などの形での出張は全くできず具体的成果が残せなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究としては、平成27年度に収集した植民地省の史料の分析を中心に、必要な追加史料を加えて、1940年代から60年代ごろまでの植民地省の植民地における社会福祉政策(1950年代以降はコミュニティ形成に比重が移る)の変容とボランティア団体との関係性、その過程における婦人会の役割について論考にまとめたい。平成29年度から少しずつ研究会や学会での活動を再開していきたいが、子供はまだ頻繁に病気をする状況でありキャンセルせざるをえない状況があるため、今年度も報告などは難しい。史料については、いくつか収集が必要なものが出てきているが、海外出張は難しいため、できる限り取り寄せで対応したい。 研究計画としては、当初、植民地での活動で史料中に出てくることの多かったWVSも検討対象にいれていたが、これについては期間内に検討対象にすることは断念する。他方、研究を進める中で、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の議論なども参照する必要性を感じた。コミュニティ形成で重要になってくるソーシャル・キャピタルの議論を踏まえたうえで、1940年代~60年代にかけての植民地の独立が問題となっている時期にイギリス政府が本国のボランティア団体と協働して行った植民地でのコミュニティ形成への動きについて、その姿勢や手法がどのように変容していったのかということに焦点を当てて論考にまとめるとともに、その中での婦人会の位置づけを行っていき、今後の研究へとつなげていきたい。
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Causes of Carryover |
未使用額が生じた最大の理由は、研究報告などに関する国内出張、史料収集のための海外出張ともにできなくなったために、旅費の使用がなかったことである。また、研究計画の遂行自体が遅れており、新たな史料の取り寄せも行わなかった。以上のことから、研究遂行に最低限必要な予算執行にとどまり、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度で取りに行く必要のある史料はあるが、子供がまだ幼く、いずれかに預けるにしても海外での長期出張はかなり難しい状況である。したがって、研究上は限界があることを承知で、集める史料をかなり限定したうえで、取り寄せが可能なものをできる限り取り寄せる方向で対応したい。国内出張については、子連れで徐々に再開していくが、子供の病気によるキャンセルの可能性があるため、報告は引き受けづらい状況にある。いずれにしても、未使用額はそれなりに出る可能性が高いため、これらについては返納する予定である。
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