2015 Fiscal Year Research-status Report
池大雅作品にみる室町文化憧憬の探究:水墨表現を中心に
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25871215
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
出光 佐千子 青山学院大学, 文学部, 准教授 (90462902)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 池大雅 / 如拙 / 雪舟 / 室町水墨画 / 室町文化 / データベース / 南画 / 文人画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、池大雅が評価した日本の水墨画(主に室町時代の水墨画)を明らかにすることにより、中国憧憬の論理で説かれてきた日本文人画研究に対して、その作画思想を再検討することを目的としている。出産および育児休業により中断していた研究(中断期間:平成26年9月2日~平成27年9月30日)を平成27年10月より再開し、前年度に引き続いて池大雅による中世水墨画学習の一様相を、〈水墨表現〉および〈詩画一致の芸術観〉について明らかにした。 本年度は、中世水墨画史の主流に位置する如拙と雪舟の作品に対象を絞り、大雅作品との比較研究を行った。如拙の「瓢鮎図」を踏まえながらも、画風が全く異なると評されている「柳下童子図屏風」について、略筆による線の妙味が如拙の減筆法に通じる重要な要素であることに新たに着目し、その禅画を思わせる水墨表現が大雅による「瓢鯰図」と極めて近いことを示した。さらに、「瓢鯰図」の賛の中で大典顕常が示した「不至之指」という禅的な命題が、「柳下童子図屏風」の中で水に手を入れる子どもの指先の表現に絵画化されている可能性を推察した。 また、雪舟風の楷体描が大雅様式の完成をみた40代以降にその様式を打ち破る新たな表現として登場してくること、そして43歳の「日本十二景図」に初出する楷体描が、48歳の「十二ヶ月離合山水図屏風」で様々な謹直な線の集積へと変化し、雪舟様の集大成のような本屏風に注文主の趣味が表されている点に迫った。その結果、中国渡来の「新様」と日本の水墨画の「古風」という二つの心地よい調和こそが、京都で文人画が受け入れられた条件であったことを再確認した。 この研究成果は、「池大雅における室町文化憧憬の一様相」(『出光美術館研究紀要』21号)にまとめられている。なお、子育てのため長期にわたる出張が困難な部分を、今年度は学生のアルバイトに依頼して、過去に調査した作品画像の整理に充てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年間の研究中断をしたが、平成28年度末まで補助事業期間を延長したため、遅れていた調査研究を当初の計画におおよそ戻すことができた。 平成26年度の4月~7月に実施予定であった〈大雅の指頭画と水墨画の伝統技法の関係〉については、研究再開後、以下の作品についてほぼ調査が実施できた。①「指墨怪鬼彈琴図」(東京・個人蔵)②「指墨蕙石図」(京都文化博物館)③「年中行事図屏風」(東京・個人蔵) 平成28年度前半は、以下に掲げた、平成26年度中に調査できなかった作品も併せて調査を実施する。①「指墨梅花黄鳥図」(国内個人蔵)②「指墨寒山拾得図」(京都国立博物館蔵)③「慧遠庵居図・陶淵明陸修静図屏風」(国内個人蔵) さらに、平成26年度8月~12月に実施予定であった〈大雅作品における画賛研究―室町時代の詩画軸との関係〉について調査研究を開始する。また、大雅のパトロン・植松家の菩提寺である徳源寺所蔵作品の調査に関しては、平成26年度の5月以来、中断していたが、平成28年度に再開し、引き続き年3回ほどのペースで実施予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は池大雅没後280年にあたるため、池大雅展を翌平成29年度に出光美術館で開催することとなっている。従って、最新の研究成果を単著の論文だけではなく、展覧会および展覧会図録に反映できることが期待される。また、研究者の家庭環境が変化した事情により、前年度に引き続き、調査対象を国内の機関・個人所蔵の作品に限定することとしたい。 [平成28年度](4月~9月) 平成26年度の計画中に残されていた課題として、画賛研究の視点から、大雅作品と室町時代の詩画軸との比較研究をテーマとする。江戸文人サークルの詩画の鑑賞スタイルに、室町文化がどのように反映されているかを考察すると共に、18世紀の出版物を渉猟し、室町水墨画に対する憧憬の実態を調査する。主な対象作品:①「箕山瀑布図」(東京・個人蔵)②「陸奥奇勝図巻」(福岡・九州国立博物館蔵)③「雲林晴暁図」(東京・個人蔵)④「米法夏山図」(東京・個人蔵)⑤「竹巌新齋図屏風」(東京・個人蔵)また、平成26年度に引き続き、大雅のパトロンであった植松家と、その菩提寺の徳源寺が所蔵する作品および博物館が所蔵する植松家旧蔵品の調査を進める。 [平成28年度](10月~3月) 9月までの計画で残された調査を実施しつつ、平成25年から平成28年度までの研究成果を「池大雅による室町文化憧憬-江戸の文人趣味の基層を探る」(仮)などの論文として報告する。平成29年度の展覧会図録に、研究成果を取り入れた論文を掲載できるように準備する。
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Causes of Carryover |
平成27年9月末まで出産および育児休業により研究中断をしていたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度に調査できなかった国内の美術館や個人コレクターのところに出張すると共に、調査した画像資料整理(フイルムスキャン)のために作業補助員の学生のアルバイトを引き続き依頼する。また、アシスタントとして、池大雅作品を所蔵する京都文化博物館やMIHO MUSEUMの文人画を専門とする学芸員に、適宜、作品の共同調査のために出張依頼を要請したい。
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