2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25884067
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
酒井 浩介 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (60710556)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 座談会 / 合評会 / 批評 |
Research Abstract |
昨年度、購入した機器・資料などの環境の整備後、資料のデータベース化を行いその分析を行っている。現在、主に大正から昭和期にかけての合評会・座談会を中心に『新潮』『文藝春秋』『文学界』などの雑誌、そしてそれに大きく関わっていた作家達、具体的には菊池寛・佐藤春夫・小林秀雄・久米正雄らの状況を調べている。個々のデータの分析については大学の紀要などを使って発表する予定である。 座談会はそれが行われていた雑誌の性格や、出席者の構成、テーマの設定によってその議論が大きく変わってくる。特に前出の出席者たちの雑誌や座談会ごとの差異、そして座談会によって議論が収束するときと収束しないときの差異に着目しその分析を行っている。特にテーマは作品などの具体的な言及対象が設定されているか、より大きな抽象的な議題が設定されているかもしくは設定自体がなされていないかで議論の収束に違いが生まれている。前者は合評会、後者は座談会が該当することが多い。作品などの具体的な言及対象がある場合は各人の感想の羅列に終始することも多く、それゆえに議論は収束しにくい傾向があると分析している。 一方で議論に抽象的なテーマが設定されている場合は個別に紛糾する可能性は下がるものの、議論が収束しない場合はそもそものテーマ設定や概念の定義自体の見解が合わない事例が発生する。こうした議論自体が成立しない際の条件を各雑誌とその座談会の行われた条件の違いを見ることで座談会の批評のあり方が確認できている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
なるべく文学に限定して座談会のデータベース化を図っているが座談会の全貌は必ずしも文学に留まるものではなく、その評価を行っていくためにはどうしてもそれ以外の座談会との比較検証が必要になる。限定を外したときにどうしても対象が広域になるため、すべてを押さえることは不可能としてもより効果的な題材の選定に少し時間がかかってしまっている。 特に当時の状況を知るためには婦人雑誌の動向などを抜くわけにはいかないのだが、当時の婦人雑誌の座談会の状況を継続的に調べて行くにはどうしても資料の保存状況の点で少し時間がかかるのが現状である。 一方で、大正昭和期の全体的な方向性としての結論はほぼ出てきていると考えている。どうしても個人の作家研究と違い領域と資料の策定には慎重にならざるをえない点があるが、ガイドラインとしての報告は十分に可能な状況にあると自己評価を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
戦前期の批評のあり方として雑誌『文学界』にて行われた「近代の超克」の分析を行うことで座談会の批評の可能性と不可能性を照らし出したいと考えている。「近代の超克」は戦中に作家・哲学者らを集めた座談会として現在に至るまで寛く注目を集めている。それは戦争に対する当時の知識人たちの対応として注目されているわけだが、そもそもその議論自体が不毛ではなかったという見解もあり、その批評性への評価は分かれる。 しかし、それは座談会と銘打たれており、他の座談会と比較してみることでそれが決して特異なものではなく、むしろ知識人たちを集めたという点で肯定にしろ否定にしろ過大に評価されていることが明らかになると考えている。ただし、議論自体が不毛であったとは考えておらず、そうした外部的な座談会の成立状況を踏まえた上で議論の収束していない点を初めて正当に評価できるのではないかと推測している。
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