Research Abstract |
二枚貝類は摂餌や被食を通じて, 沿岸域の物質循環に重要な役割を果たしており, その生息環境の保護は生物多様性の保全のために非常に重要である. しかし, 干潟の二枚貝の餌料は, 一次生産者やデトリタス等であることは既往研究において示されているが, その餌料中のどのような栄養源が二枚貝にとって有用なのかは分かっていない. そこで, 本研究は, 脂肪酸の炭素安定同位体比を用いて二枚貝にとっての真の栄養源を推定する上で必要な基礎的データを収集し, 食物網解析へ応用することを目的とした. 生態系の食物網解析手法として安定同位対比や脂肪酸組成の解析が良く用いられている. 対して, 各脂肪酸中の炭素安定同位体比を解析する手法により餌料源だけではなく, 摂餌者にとって質の良い栄養源を解析できることが分かってきている. そこで, 餌料源として, 生息域水中の懸濁態有機物と底質中の有機物, 底生微細藻類を分析した. 宮城県名取市の広浦から底質を採取し, 底生微細藻類を分離培養した. 培養後, 同一の培養ロットを2つに分け, 片方はそのまま室内にて培養を継続し, もう一方は, バクテリアや微細な有機物は通さないが, 栄養塩は透過することができる透析膜に入れ, 広浦にて1ヶ月間, 現地で培養を行った. 1ヶ月後, 回収した藻類の脂肪酸組成, および脂肪酸の炭素安定同位体比を測定した. 結果, どの脂肪酸中の炭素安定同位体比も, 現場で培養した方が約5‰低い値となった. 例えば, 脂肪酸の炭素安定同位体比は, 室内実験系のリノール酸は-19.3‰であるのに対し, 現場実験系は-25.7‰であった. 広浦底質のリノール酸は, 約28‰程度を示すことが多いため, 底生微細藻類よりも重い炭素原が底質中に存在することになる. つまり, 底質は有機物と微細藻類の混合物であるため, 本研究のように詳細な解析をすることで, 餌料源解析がさらに進み, 食物網解析へ応用されることが期待される.
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