Research Abstract |
兵庫医科大学病院は, 高度先進医療を提供し, 1150床を有する特定機能病院である. 当院の歯科衛生士は, 周術期の口腔ケアを診療科開設当初から行っている. 口腔ケアの目的は, 術後の誤嚥性肺炎などの合併症を予防することである. 全身麻酔下での手術症例のなかでも口腔内病変や歯科治療が菌血症を引き起こす心臓血管外科領域では, 術前術後の口腔機能管理が徹底される必要がある. 本研究は, 兵庫医科大学病院の心臓血管外科で全身麻酔下の手術を受けた患者について, 術前の専門的な口腔ケアを行った症例と, 術前の歯科介入が無かった症例を抽出し, 術後血液データや集中治療期間などを調査し, 術前の歯科介入が疾患の予後に与える影響を検討することを目的とした. 対象は, 2008年1月~2013年12月までの5年間で, 兵庫医科大学病院心臓血管外科にて, 緊急を除く心臓血管外科手術を受けた患者745名(男性456名, 女性289名, 平均69.7歳(24-94, min-max))とした. 身長/体重, 術前の心機能分類(NYHA分類), 呼吸機能分類, 心胸郭比, 術前術後の血液生化学データ(CRP/Hb/Cr/Pt/WBC等), 集中治療室滞在時間や体温変化を, 兵庫医科大学病院の電子カルテより抽出した. また, 術前に歯科介入があった患者について, 歯数および処置歴を, 医療情報システムおよびカルテ記載よりデータ抽出し, これらのデータを分析した. 対象患者のなかで, 術前に歯科が介入して口腔ケアを行った症例は62例(男性33名, 女性29名)で, 心臓血管外科手術を受けた患者の8%であった. 残存歯数は平均20.2本(0-31本)で, 術前の歯科介入回数は2.5回(1-6回)であった. 術前歯科介入があった患者はNYHA分類で1-3の患者のみであり, 心機能が著しく低下している症例に対しては非介入であった. 統計学的分析の結果, NYHA分類が2以上の患者における術後クレアチニンについて, 歯科介入があった患者が有意に低値を示した. 以上の結果より, 術前の歯科介入は心臓血管外科術後における患者の体調改善に良い影響を与える可能性が示唆された.
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