2015 Fiscal Year Annual Research Report
メゾスコピック系における非平衡スピン輸送の微視的理解とその制御
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26220711
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小林 研介 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10302803)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00221812)
小栗 章 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10204166)
内海 裕洋 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10415094)
加藤 岳生 東京大学, 物性研究所, 准教授 (80332956)
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Project Period (FY) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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Keywords | ゆらぎ / スピン依存伝導 / 近藤効果 / 非平衡 / 量子液体 / 位相 / ナノエンジン |
Outline of Annual Research Achievements |
微細加工技術を駆使して作製される固体素子は、電圧によって平衡状態から極端な非平衡状態までを連続的に制御することが可能であり、非平衡スピン輸送を定量的に取り扱うことのできる理想的な舞台である。本研究は、固体素子における非平衡スピン輸送過程を微視的に明らかにすることを目的とする。特に、本研究では、非平衡状態にある近藤効果に着目している。近藤効果が起こっている量子ドットは低温では局所フェルミ流体状態が実現することが知られている。そして局所フェルミ流体の残留相互作用により、倍電荷を有した準粒子対が非平衡電流中に形成し電流雑音が増幅する。このことを実験的に検証することに成功した。また、その磁場依存性を数値くりこみ群を用いて計算し、実験との比較検討を行った。その結果、実験で観測されていたコンダクタンスの平坦なゲート電圧依存性の特徴は、磁場中においてもFermi準位付近にほぼ縮退した準位が存在し近藤効果を示すためであることを示した。さらに、クーロンブロッケード領域における非平衡電気伝導を調べ、高次のトンネル過程(コトンネリング)による電流、および電流揺らぎを計算した。以上の成果は、本研究計画遂行の中で、代表者・分担者・連携者との日常的な密接な議論によってなされたものである。また、量子ドットを微小リングに埋め込んだアハラノフ・ボーム干渉計における近藤効果を理論的に調べ、多端子系による位相差の観測可能性を明らかにした。近藤効果だけでなく、微小磁気トンネル接合構造に着目し、揺らぐスピントルクによるナノ磁石のブラウン運動を研究した。微小磁気トンネル接合構造を微小な熱機関ととらえ、ナノエンジンの揺らぎの定理を用いることで、揺らぐ非保存力の下でのナノ磁石の反転確率を求め、閾値電圧の存在を予言した。これ以外にも、量子ホール状態にあるグラフェンpn接合で起こる電子分配を初めて定量的に確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
量子液体の非平衡ダイナミクスを解明できたことは学術的に極めて優れた成果である。この成果は、非平衡スピン輸送を微視的に定量化する、という本研究計画の目的に完全に合致するものであり、代表者と分担者1名、連携者1名らが共著となりNature Physics誌に出版された。これに関連して、量子ドットの非平衡輸送現象に対する外場や様々な摂動の効果に対応した理論解析を行うため、数値くりこみ群の計算機コードの拡張を行った。これまでに磁場、谷間混成による軌道分裂、スピン軌道相互作用等が複合された場合にも対応できる体制がほぼ整った。近藤状態に関連して、準粒子対のエンタングルメントに注目した研究も展開中である。コトンネリングによる電流と電流揺らぎについては、実験結果の半定量的な説明に成功している。揺らぎの定理を取り入れたスピン流・熱流の理論構築を目標に順調に研究を進めている。これらの成果に加えて、端状態についての微視的な解明が出来たことも重要な成果である(Nature Comm誌に掲載)。昨秋には代表者・分担者・連携者および院生ら33名が一同に会し、一泊二日で研究会を開催し、今後の研究を加速させ、更なる進展に繋がる議論を行った。以上のように、代表者・分担者・連携者の間で緊密な連携が取れており、優れた成果が蓄積されていることから、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が昨年度当初の計画以上に進展したことから、今後もこのペースを維持した状態で研究を遂行する。計画遂行上の問題点は無い。実験面では、電流ゆらぎ測定手法を、非平衡スピン輸送がかかわる伝導(アンドレーフ反射、近藤効果)などに適用していく。近藤効果については、これまでの理論解析は、電子間の相互作用として軌道内および軌道間のクーロン相互作用の効果を取り入れた計算に基づいていた。カーボンナノチューブでは、状況によりフント結合の効果が見られる場合もある。今後は、谷間混成による軌道分裂、スピン軌道相互作用に加え、フント結合の影響も考慮に入れ、SU(4)近藤効果などのカーボンナノチューブにおける多彩な近藤効果における実験・理論の両側面からの総合的かつ詳細な解明を目指す。また、実験で観測された雑音をより広い領域で理論と比較するために粒子正孔非対称模型の理論解析に挑む。まずは小さな非対称性から始め、繰り込みの手法などを援用すること非対称性の強い領域の問題に挑む。さらに、多谷人工原子としての一般的な性質と、その励起スペクトルのコトンネリング電流による観測を提案する。熱流についても研究を行っていく。熱流の非平衡揺らぎを、揺らぎの定理を用いて研究する予定である。具体的には、トンネル接合における熱電効果について、ナノ熱機関の効率の揺らぎを研究することを考えている。さらに、熱流の非平衡揺らぎを、電子分布の熱平衡化過程を考慮しつつ解析し、電子過熱が揺らぎの定理に与える影響を研究する。具体例を積み重ねることで得られた知見を組み合わせ、電流・スピン流・熱流における非平衡揺らぎの理論をまとめることを目指す。さらには、ナノ素子における非平衡熱力学の定式化を考察する。
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Remarks |
1.受賞 平成27年7月14日、第4回(平成27年度)大阪大学総長顕彰・研究部門、大阪大学(受賞者氏名:小林研介) 2.アウトリーチ:小林研介「現代物理学への招待-量子の発見とその応用」(出張講義、私立明星高等学校・中学校)2015年7月9日 等、計4件
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