2014 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外領域の陰性吸光度を利用した試薬レス在宅尿成分分析システムの開発
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26282119
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
田中 志信 金沢大学, 機械工学系, 教授 (40242218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 充洋 帝京大学, 理工学部, 講師 (30322085)
野川 雅道 金沢大学, 機械工学系, 助教 (40292445)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 尿成分計測 / 近赤外分光法 / 在宅ヘルスケア / 糖尿病 / 高血圧 / 慢性腎臓病 / 近赤外LED |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は尿糖(尿中グルコース濃度)、NaCl、尿素、そしてこれら成分の24時間排泄量の推定に用いられているクレアチニンの4成分の濃度推定を行った。 具体的には21-23歳の健常成人男性11名から随時尿を採取し、それぞれの尿にグルコースを所定量添加し合計121サンプルを得た(以下「グルコース添加尿」)。これらサンプルの所定量を臨床検査センターに委託し実測濃度を得ると共に、残りのサンプルに対して現有設備のFT-IR型分光器を用いて波長範囲750~2500nmで水との差分吸光度(⊿Abs)を計測した。得られたデータに対して部分最小二乗(PLS)法を用いて回帰式を求め、実測濃度と予測濃度との相関を検討した。その結果、各成分共に相関係数:γ=0.97~0.99という極めて良好な直線相関が得られ、光学的な手法により尿中の4成分を高精度で濃度推定可能であることが確認された。 次に実使用場面により近づけるべく、実際に尿に糖が出ているサンプル(以下「高尿糖随時尿」)を用いて実験を行った。具体的には、糖尿病が疑われる成人男性1名の随時尿を朝食前・後を含め1日2~4回採取し計21サンプルを得た(尿糖実測値:mean(s.d.)=334.5(308.7)mg/dl, max: 1028mg/dl)これらサンプルの⊿Absを計測しPLS回帰を行ったところ、γは尿素:0.995、グルコース:0.850、クレアチニン:0.826、NaCl:0.739と尿素以外の3成分でグルコース添加尿に比べ直線相関が低下した。 そこでPLS回帰に用いる波長域を再考し、各成分の濃度変化に対する⊿Absの変化が大きい3波長域に厳選してPLS回帰を行ったところ、各成分共にγ>0.97となり、高尿糖随時尿においてもグルコース添加尿と同程度の高精度で濃度予測可能であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度研究実施計画では5成分(グルコース、アルブミン、尿素、クレアチニン、NaCl)を水に溶解した「多成分混合水溶液(模擬尿)」を用いて実験を行うこととしていたが、実際の尿中にはこれら以外にも妨害物質と成り得る成分が多数混在している。そこで今年度の実験に際しては計測サンプルをより「実使用場面」に近づけるべく、複数の健常成人から得た尿にグルコースを添加した「グルコース添加尿」を用いることとした。そしてアルブミンを除く4成分について「研究実績の概要」欄に記載のとおり良好な計測結果を得ている。また「グルコース添加尿」から更に実使用場面に近づけた「高尿糖随時尿(実際に糖が出ている尿)」を用いた実験についても、被験者1名ではあるがグルコース添加尿と同等の精度で各成分の濃度予測が可能であることを確認している。この様に本研究課題はおおむね順調に進展している。 また前倒し申請時に報告した通り、当初平成27年度に予定していた光学的なバンドパスフィルタ(BPF)を用いたシステムの試作については、次のような理由によりこの過程を省略し、一足飛びに最終目標である「近赤外多波長マルチチップLED (NIR-LED)」とフォトダイオード(PD)を用いたシステム(NIR-LED-PD)の試作に移行することとした。この様な大幅進捗が可能となった最大の理由は、つい最近になって1400nm~2400nmの近赤外領域のLEDが比較的安価にかつ波長のバリエーション豊富に入手可能になったことにある。具体的にはロシアの「LED Microsensor NT」という企業が上記波長範囲で100nm刻みでNIR-LEDを製作していることが分かり、当初H27年度に予定していたBPFシステムの検討を一足飛びに、最終目標であるNIR-LEDアレイ型システムの基礎的検討へと研究計画を進められるようになった次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したようにNIR-LED-PD方式による尿成分分析法の基礎的検討を行う。具体的には(1)水の吸収が顕著な2000nm前後におけるS/N及び測定精度向上を目指し、複数の同一波長LEDチップをワンパッケージ化する「マルチチップ化」によるLEDの光出力増加を試みる。(2)溶媒である水の吸光度が波長ごとに大きく異なることへの対応策として、当初計画の「波長毎に適した光路長を設定する」方式に加え、光路長を多段階可変とした「マルチ光路長計測システム」を試作し高精度化の可能性を検証する。 一方、使用波長数の削減に関する課題に対しては、目標波長数:10波長程度を目途にFT-IR計測データを用いて使用波長の絞り込みを行う。具体的には、上述のLED Microsensor NT社より提供可能なNIR-LEDの中心波長と半値幅のデータを基に重み関数を求め、グルコース添加尿及び高尿糖随時尿のFT-IRデータにこの関数を掛け合わせることでNIR-LEDにより得られる差分吸光度を推定し、重回帰分析により各成分の濃度推定に適したNIR-LEDの波長組合せを決定する。 なお高尿糖随時尿の計測実験については被験者数を増やすと共に、実用性を考慮して次のような検討を行う。即ち自身の尿のデータを全く含まない状態(すなわちすべて他人の尿のデータのみ)で回帰式を作成し、これに「濃度未知のデータ」として自身の尿データを適用し濃度推定精度を検証する。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更に伴いH27~H29年度の基金分:合計1,500千円(500千円×3)を前倒しして研究を進めた結果、H26年度内の支出が1,000千円弱で収まったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は「可変光路長セル」の購入費用に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)