2015 Fiscal Year Annual Research Report
地域・家庭の言語環境と日本生育外国人児童のリテラシー発達に関する調査研究
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26284071
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
齋藤 ひろみ 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50334462)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 篤嗣 帝塚山大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30407209)
橋本 ゆかり 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (40508058)
岩田 一成 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (70509067)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本生育外国人児童のリテラシー発達 / 縦断研究・横断研究 / 学校における外国人児童の比率 / 作文解析ソフト / 作文における話しことばの使用 / 社会化と語彙使用の関係 / 国語科におけるリテラシー教育 / 研究成果の合同発表 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は次の3つの課題に取り組んだ。 第1に、平成26年度(調査協力校が近隣の学校と合併した後)に収集した作文データを分析し、それ以前(平成20-25年、合併前)の結果との比較を行った。外国人児童比率の違いが作文力の発達に影響をもたらすのかに関し、作文産出量・文構造の複雑さ・内容(エピソード)構成に着目して、結果を考察した。その結果は、社会言語科学会(2015年9月・京都教育大学)で発表している。日本人児童の比率が高い学校の場合、低学年では日本人児童と外国人児童の差が大きく、高学年では日本人児童の作文に、内容の構造化や文章構成に統括型の整った作文が多いという特徴がみられた。今後も、継続的に学校内の外国人児童数の違いによる作文力の発達について探っていく。 第2に、外国人児童のリテラシー発達のための教育・支援活動において、作文分析の結果をいかに生かせるか検討を行った。学校で実施されているリテラシー教育の現状を把握したうえで、科研のプロジェクトとしてこれまでに得られた知見を示し、国語科教育学領域の専門家とともに外国人児童のリテラシー発達のための授業の工夫や支援について、日本語教育学会のパネルでディスカッションを行った(2015年10月・沖縄国際大学)。 第3に、関連のある他の科学研究費研究グループと、合同の科研報告会「多様な言語文化背景をもつ子どもたちのリテラシーフォーラム3 子どもたちの日本語の発達を可視化する ―語彙・文法の力に焦点を当てて―」(於:お茶の水女子大学)を開催し、現場の実践者や関連領域の研究者に対し広く成果を公開した。合同発表を行ったのは、基盤(C)「日本語を母語としない子どもの語彙とコロケーションの知識に関する研究」(西川朋美代表)と基盤(B)「多言語背景の児童を対象とした多層分岐適応型日本語力診断オンラインテストの開発」(酒井たか子代表)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査協力を得ている小学校が合併したことにより、学校の外国人児童生徒の比率が変わり、調査対象の児童集団の質が変化した。合併後も外国人児童が多数在籍する学校であるという点では同じであるが、日本人児童の比率が高まったこと、学力的にも高いことなどを結果の解釈において考慮する必要がある。縦断調査では合併前の学校の児童のみを対象としているが、横断調査ではデータ数を確保するために合併前後のデータを利用して分析している。そのため、考察においては、合併前後の学校の質的変化を考慮するなど慎重に進めている。結果として、分析には予定よりも時間を要することになった。 この点以外は、順調に進めることができている。特に、データの入力や分析に大学院生を雇用して協力を得ているが、それによって円滑に情報処理を行うことができている。 量的な分析においては、データ数を増やしながら産出量および文構造の複雑さ、表記の誤り、文法の誤りについて調査しているが、当初の結果とほぼ同様の結果が得られており、結果の信頼性は高まっている。こうして得られた結果をもとに、作文における「話しことば」の利用を抽出できる作文解析ソフトを開発中である。 また、作文の種類として「出来事作文」のほかに「意見文作文」を収集し、その分析方法を検討している。その成果の一部については、平成28年度の日本語教育学会国際大会(2018年9月バリ開催)での発表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は3年目を迎え、2期にわたる本研究プロジェクトのまとめの段階に入る。そこで、第一にこれまでの調査結果をまとまった形で公開するための準備を始める。具体的には、各学会で発表してきた研究成果を、マッピングしつつ相互の関連について検討をする。また、近年多く見られる第二言語習得、バイリンガリズム等の研究領域の成果に照らしながら、日本生育外国人児童のリテラシー発達について、鳥瞰的な捉え方で総合的に検討を行う。最終年度には、その結果を本科研研究プロジェクトの成果として書籍化することを予定している。 第二に、平成27年度から収集している「意見文作文」の分析に関し、出来事作文との比較可能な方法を探り、日本生育外国人児童の、いわゆる「記録文」と「意見文」を書く力の発達の違いを記述する。こうした作文ジャンルによる発達の違いについては、日本人児童に関する研究も十分には行われておらず、試行的に行わざるを得ないが、言語発達・認知発達の研究知見をもとに、論理構成力の発達など、思考する力としてのリテラシーの発達の特徴を描きたいと考えている。 第三に、本調査の結果をもとに開発中の作文解析ソフトについてさらに精緻化を進める。それを、本科研終了時点で本科研webサイトで公開し、外部からも利用可能にする予定である。学校現場の教員やこの領域に関心のある研究者が、子どもたちの作文を分析しリテラシー発達上の課題やその解決のための教育方法を検討するための情報を得られるように、本解析ソフトを有効に利用できる仕組みを作りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
分担研究者の森篤嗣氏が予定より交通費がかからなかったため、その分を次年度使用額としたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分担研究者の経費は、東京において実施する研究会(内部検討会を年に4回開催予定)への参加のための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(16 results)