2015 Fiscal Year Annual Research Report
名古屋議定書における人権、経済及び他の協定との相互連関-京都議定書との比較研究-
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26285013
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西村 智朗 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70283512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳川 信治 立命館大学, 法学部, 教授 (60280682)
高村 ゆかり 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (70303518)
松井 章浩 大阪工業大学, 知的財産研究科, 准教授 (20511645)
松本 裕子 (小坂田裕子) 中京大学, 法学部, 准教授 (90550731)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際環境法 / 名古屋議定書 / 京都議定書 / パリ協定 / 国際法の分断化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2014年10月に名古屋議定書が発効したことを受けて、第1回締約国会議の成果を分析することにより、同議定書の実効性を検討すると共に、人権法、経済法及び海洋法などの「他の国際条約・国際制度」と同議定書の相互調整の可能性について研究した。より具体的には、人権法については、松本(小坂田)が昨年度の成果を踏まえて伝統的知識を含めた少数人民の権利と遺伝資源の関係についての研究成果をまとめた。西村は名古屋議定書発効後の動きとして、第1回締約国会議で決定した遵守手続の起草過程を分析し、遵守委員会における少数人民の参加の意義について検討した。徳川は、ヨーロッパ人権条約における環境と人権の研究について研究に着手した。 経済法については、WIPOやTRIPs協定等、知的財産権の既存の条約制度と遺伝資源の利用の関係について、松井が検討した。また高村が、国家管轄権以遠の海洋生物多様性(BBNJ)問題について国連海洋法条約の下での議論状況を検討した。 2月に高麗大学校で開催されたワークショップに参加し、共同研究の成果を発表すると共に、今後の研究について意見を交換した。今回は特に、TRIPs協定をはじめとする知的財産権や、名古屋議定書とBBNJの関係に加え、名古屋議定書を批准していない日本及び韓国での議論状況や非締約国であることのリスクについての報告が行われ、活発な討論を行った。 また気候変動条約締約国会議の下で、新たな温暖化防止の法的枠組として、2015年12月にパリ協定が採択されたため、京都議定書と共に同協定の検証の準備を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、5名の国際法研究者がそれぞれの専門性を活かしておこなう共同研究である。それぞれの研究対象及び専門分野は異なるが、2年間の研究計画について、概ね達成したと評価できる。 研究対象である名古屋議定書は、当初期待していた通り2014年10月に発効したこともあり、海外研究者の関心も徐々に高まっている。他方で、日本の批准手続は予想以上に遅れており、そのため日本国内での同議定書の関心はそれほど高くない。このことが研究の進捗に直接影響を与えることはないが、多数国間環境協定にとって国内実施の問題は非常に重要なファクターであるため、引き続き日本が批准しないことを想定して、締約国と非締約国の間の差異について留意しながら研究を継続してきた。 研究代表者の西村が、2014年11月から2015年9月まで在外研究のため、日本を離れていたが、その間も電子メールなどで適宜意見交換を行い、研究成果の共有に努めてきた。また、8月から研究分担者の松本(小坂田)が在外研究に出たが、研究受入機関が西村と同じワシントンDCであったため、西村の日本帰国前にワシントンDCで米国での研究動向などの意見交換を行うことができた。その後も、これまでと同様、研究の進捗状況について研究者全員で確認しながら研究を進めた。 さらに2月に行われたソウル(韓国)でのワークショップに併せて、松本(小坂田)を除く4名で共同研究会を実施し、2年間の研究成果を確認すると共に、後半2年間の研究計画について討議した。
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Strategy for Future Research Activity |
生物多様性条約制度及び気候変動条約制度の下で採択された多数国間環境協定は、地球環境問題というグローバルな課題を対象としている点、及び環境保護を主目的としながらも発展途上国の貧困撲滅といった社会発展や貿易秩序との調整といった経済問題と密接に関連することから、既存の国際条約・国際制度との抵触が想定され、その調整が必要であるという当初の仮説は適切であったと言える。 引き続き、締約国会議への出席や、先行業績及び関連資料の収集とその分析を通じて、名古屋議定書及びパリ協定を研究素材とした研究を進めていくが、それだけに止まらず、共同研究の後半(3年目及び4年目)では、「国際法の分断化(fragmentation)」を意識しつつ、他の多数国間環境協定や人権・経済分野の国際条約を研究対象として加えながら、条約の解釈や国際機関の協働の現状に注目していきたい。 また、韓国の高麗大学との国際共同研究については、2016年度は日本(京都を予定)でワークショップを行う予定である。ここでは行政や実務のレベルでの専門家を招き、研究の精度を高めると共に、最新の情報を共有することを期待している。研究最終年度には、公開のシンポジウムを開催し、研究成果の公表と市民への還元をはかる。
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Causes of Carryover |
2015年度はソウル(韓国)で開催されたワークショップに全員が参加することができず、その分の旅費について本年度執行することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は日本でワークショップを開催する予定であり、招聘研究者の旅費や通訳費などを執行する。 また気候変動条約の締約国会議(毎年)に加えて、生物多様性条約の締約国会議(2年に1度)が開催される年であり、外国出張旅費について例年よりも多額の経費の執行を予定している。
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