2015 Fiscal Year Annual Research Report
治療的司法論の理論的展望と日本的展開:当事者主義司法の脱構築に関する学融的研究
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26285018
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
指宿 信 成城大学, 法学部, 教授 (70211753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安田 裕子 立命館大学, 文学部, 准教授 (20437180)
青木 孝之 一橋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40381199)
廣井 亮一 立命館大学, 文学部, 教授 (60324985)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 准教授 (60586189)
後藤 弘子 千葉大学, 大学院専門法務研究科, 教授 (70234995)
石塚 伸一 龍谷大学, 法務研究科, 教授 (90201318)
佐藤 達哉 立命館大学, 文学部, 教授 (90215806)
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 刑事裁判 / 司法臨床 / 更生 / 治療 / 再犯予防 / 特別予防 / 問題解決型裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
【全体】研究チームは4つのグループで構成され、進捗状況については多少の差は見られるものの、順調に研究は遂行されている。チーム全体としては、(1)年3回の治療的司法研究会の開催により、治療的司法の理論面、実践面の調査研究の成果を共有し(2)不定期に実施される治療プロバイダーの訪問参観・意見交換等を通じて治療的司法理念の普遍性の確認と意義や効用を調査し(3)海外学会において日本の研究・実践状況を報告して海外の治療的司法研究者や治療的司法理念に基づいて実践する司法関係者との意見交換を行い(4)日弁連法務研究財団の研修プログラムに協力して弁護士層に治療的司法理念を啓蒙すると共に具体的な治療プロバイダーを活用した情状弁護の実践例を紹介するなど社会還元にも努めた。 【審判・手続班】臨床実務家および弁護士の講演・報告を主たるリソースとし、刑事手続の対象者を中心に、「治療」の範疇に入る類型の見極め、「治療」の実践に関する知見の集積に努め、法的機能と臨床的機能の交差領域に生成する「司法臨床」の観点から、治療的司法において司法の枠組みに臨床的知見を導入することの可能性を研究した。 【理論・応用班】社会的に不利(困難)な立場にある人たちを教育や就職で支援するための受け皿について研究した。 【加害・被害班】加害行為、ないしは加害者の背景には被害性が存在しうるという観点により、時間経過で捉えるという見方と手法を取り入れつつ、被害とその防止を切り口に支援者の活動とエンパワーを含めた研究を進めている。 【治療と福祉班】2015年度は定例の研究会を4回開催し、3つの国際学会で成果を報告した。2回の国際集会を開催した。親密な関係性における暴力は「非対称な関係性(親子、夫婦、男女等)における相互作用と関係性に根ざして生成することを把握、加害者研究をとおして治療的司法の必要性に関する基礎的データを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【全体】研究チーム全体として順調に展開している。研究会における多様な取り組みをされている機関・団体・個人を招いての現場からの報告や、それらの施設や機関への訪問調査を通して、治療的司法において不可欠の治療プロバイダーからのヒアリングを実施することで、わが国における治療的司法理念の普及の可能性やその課題を検証することについて一定の成果が得られたこと、2015年7月にウィーンで開かれた国際法と精神医療学会の治療的司法部門において日本の現状を総括した独自のセッションを開催し海外から注目を集めたこと、治療的司法理念を実践する主たるアクターとなる潜在能力のある弁護士層への啓蒙のため研修プログラムを展開する機会が得られ、また継続する予定であること、メンバー個人の論文発表や学会報告、あるいは社会活動の協力が進められたことから、研究チーム全体として概ね順調に進捗していると評価できる。 【審判・手続班】概ね順調に推移している。実践例の分析を通じて「治療」のビルトインが可能な刑事手続を構想するための課題が見え始め、治療的司法の素地を有する日本の家庭裁判所の実情を基に、治療的司法の実践のための課題が明らかになった。 【治療と福祉班】概ね研究計画どおりに進んでいる。治療法学の理論的な基盤と現実的な実践活動とをどのように関連づけていくか、グループワークや個別のインタビューから「他罰性」「他者非難」「被害者批判」「犠牲者攻撃」等の暴力加害者の特性の明確化が課題となった。 【理論・応用班】概ね順調に推移している。 【加害・被害班】やや遅れている。治療的司法に加えて幅広い視点で推進しているが、執筆というかたちで知見を出すには十分とはいえない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究チーム全体としては、(1)研究会の継続開催ならびに訪問調査によって、更に治療プロバイダーの実態調査対象を広げる、(2)国際学会への参加交流を通じて日本版治療的司法の研究と実践を発信する、(3)学会誌等への寄稿や学会等でのワークショップ、パネル討論の企画を通じて、日本の法律・医療・心理各方面の学術関係者に広く治療的司法概念を周知させ、(4)公的機関や私的セクターと協力して治療的司法の実践上の課題を明らかにし、政策提言に結びつけていきたい。 【審判・手続班】引き続き「治療」実践に関する知見を集積するほか、その知見を刑事手続にビルトインする方途を探るため、運用及び立法の両面から、罪責認定過程と量刑過程を区別して扱う手続二分論に関する研究を進め、刑事裁判に臨床の知見を導入したり、刑事裁判の司法過程そのものを臨床的に応用したりする司法臨床の方法について具体的な事例をもとに検証したい。 【理論・応用班】日本における重要な加害者支援制度の1つである協力雇用主制度を支える最大の職種である建設土建業における支援のあり方を検討したい。 【加害・被害班】少年司法における治療的司法をより充実させるために、多職種がかかわるための方法について検討することと、少年が社会に復帰するための重要な機関である少年院や保護観察における多職種の関わりについて検討する。 【治療と福祉班】引き続き国内外の学会などで積極的に問題提起をするとともに、成果の社会的還元にも努めていきたい。また、暴力加害者の特性に配慮した回復的正義・修復的司法、治療的正義にもとづくケアとジャスティスを統合した脱暴力の理論と実践について臨床社会学的研究のまとめをおこないたい。
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Causes of Carryover |
研究メンバーの中で国際学会への参加を次年度において実施するため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
廣井が国際学会において「司法臨床」に関する単独報告を実施し、日本の刑事裁判において、特に量刑事情に関する臨床的アプローチがどのように展開されているかについて報告を企画している。
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Research Products
(35 results)