2015 Fiscal Year Annual Research Report
電場による瞬間的な原子の動きと化学結合の変化を可視化する時分割構造計測技術の開発
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26286043
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
黒岩 芳弘 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40225280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森吉 千佳子 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00325143)
大沢 仁志 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00443549)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 構造・機能材料 / 誘電体物性 / X線 / 超精密計測 / 物性実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
圧電材料に電場が瞬間的に印加された時の構造変化をX線回折で調べるための実験要素技術の開発を行い,電場誘起相転移のダイナミクスや巨大構造歪みが発現するしくみを解明することが本研究の目的である.そのために,電場印加のタイミングに同期させて時分割放射光回折実験を行い,結晶構造を電子密度レベルで可視化する‘picosec-crystallography’の確立を目指した. 平成26年度には,研究目的を達成するために,①電場印加時分割格子歪解析と②単結晶電子密度解析の2つの研究課題を実行した.高感度イメージングプレート読み取り検出器を大学に導入して,電場印加実験に対する予備測定が大学でできる環境を整備した.本実験はSPring-8で行われた.計画通りの実験を行うことができた. 平成27年度には,平成26年度に開始した①と②の研究課題を発展させながら,これら2つの課題の融合を図り,新たな課題③電場印加時分割電子密度解析をSPring-8の単結晶ビームラインにおいて開始した.この実験を効率よく行うために,平成27年度の補助事業に要する経費の中から主要な物品として大学にX線構造解析装置制御・解析システム一式を導入して,平成26年度に導入した高感度イメージングプレート読み取り検出器と組み合わせることにより,単結晶構造解析に対する予備実験が大学で行える環境を構築した.また,平成26年度の研究成果より,高繰り返し計測の重要性がわかったため,SPring-8にマルチファンクションジェネレータを導入した.これにより,電場印加時分割実験において,これまでより適切かつ高周波の電場を試料に印加する事が可能となった.水晶やチタン酸バリウムに対して原子位置レベルで時分割構造解析することに成功し,成果を欧文雑誌や国内外の学会および研究会で公表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度において,①電場印加時分割格子歪み解析について,計画通りピコ秒オーダーの時間分解能で格子歪みを解析する実験技術を確立した.また,②単結晶電子密度解析についても,通常の微小な単結晶試料のみならず,電極の取り付けられた強誘電体板状単結晶試料に対しても,電子密度解析を行う実験技術を確立した.したがって,平成27年度の中ごろから予定通りにこれら2つの課題の融合を図り,新たな課題③電場印加時分割電子密度解析をSPring-8の単結晶ビームラインにおいて開始することができた. まずは,原子位置レベルでの電場印加時分割構造解析を目指して実験技術の確立を目指した.圧電体である水晶や強誘電体であるチタン酸バリウムに対して,従来は格子歪みレベルで時分割構造解析を行っていたが,電場印加の瞬間からの原子位置の時間変化を可視化することに成功した.したがって,ピコ秒の時間分解能をもつ回折データを収集し,それらのデータを原子位置レベルで構造解析する技術については確立することができた.これらの成果の一部を論文として公表した.また,解説記事の執筆や国内外の学会及び研究会から招待講演を依頼された.チタン酸バリウムに対する成果の一部は,SPring-8における研究成果を紹介するパンフレットの日本語版および英語版に掲載された. 研究計画は予定通りに進んでいるが,平成28年度に予定している最終目標である電子密度レベルでの電場印加時分割構造解析については着手できていないので,おおむね順調に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には,③電場印加時分割電子密度解析の可能性を見極めるために,電子密度レベルで時分割構造解析するためのデータ収集に本格的にチャレンジする.一方,これまでの実験で,電場印加の繰り返し周波数の選定が実験条件を決めるとき重要であることがわかってきた.また,誘電体などでは交流電場に対する応答が本質的に周波数依存することが知られている.そのような周波数依存の起源を可視化された結晶構造から明らかにする課題にもチャレンジする.一方,これまでの研究を通して,チタン酸バリウムの配向セラミックスの電場誘起相転移やビスマスを含むペロブスカイト型セラミックスが特異な電場誘起相転移により巨大な構造歪みを生じることを明らかにしてきた.さらに,チタン酸バリウムをベースにビスマスなどをドープしたセラミックスにおいて,電場印加下での巨大構造歪みが結晶格子の歪みにより生じることも明らかにした.これら一連の電場印加下でのセラミックス材料の構造解析についても研究を行う予定である. 成果をとりまとめ,これまでに得られた成果と合わせて学会発表や論文発表を行う.すでに平成26年度と27年度に得られた成果により,日中強誘電体応用会議からは基調講演を,アジア強誘電体会議,セラミック協会,錯体化学会から招待講演,結晶学会からは解説記事の執筆を依頼されている. 以上のような構造解析の手法が確立されれば,圧電材料に限らず,外場応答する物質の相転移や準安定状態を電子論の立場から実空間で議論するという実験研究分野が開拓できると期待する.また,動作している電子デバイス内部の材料の挙動を非破壊で構造評価できるようになり,実用材料開発や故障解析の観点において,産業界への波及効果も高いと考えている.
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Research Products
(28 results)