2015 Fiscal Year Annual Research Report
大サイズクラスターを用いた水の余剰電子捕捉機構の赤外分光研究
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26288002
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤井 朱鳥 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50218963)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水 / クラスター / 赤外分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は水クラスターアニオン生成と検出に注力すると共に、その構造を検討するために良い比較対象系となると期待されたプロトン付加トリメチルアミン-水クラスターの赤外分光を行い、スペクトルと構造の解析を行った。 プロトン付加トリメチルアミン-水クラスターはトリメチルアミン部に保持された余剰プロトンに水クラスターが1配位で付着するため、電荷-双極子相互作用により余剰プロトンを安定化するように、水クラスター部分が強く分極し、大きな双極子を形成する。従って、水アニオンの双極子束縛状態と極めて類似した原理により、水クラスター部の水素結合構造が構築されることが期待される。赤外分光実験と量子化学計算による広範囲の安定構造探索から、このクラスターでは予想に沿った水部の分極が形成され、その大きさは7D程度に及ぶことが分かった。これは余剰電子の双極子束縛の閾値を大きく超える値であり、アニオンの双極子束縛状態に対応する、大きく分極した水素素結合ネットワークをプロトン付加クラスターで観測することに初めて成功した。更に、このクラスターの水部分のOH伸縮振動領域の赤外スペクトルは大サイズで3200 cm-1付近に特徴的なバンドを示し、その位置は水のクラスターアニオンで余剰電子の保持サイトの水分子のOH伸縮振動とされているバンドの位置と一致した。このバンドはクラスター表面に電子を保持した水アニオンクラスターのマーカーバンドとされてきたが、大きく分極した水素結合自身が類似のバンドを示す可能性が示唆され、水アニオンクラスターにおける電子の表面保持という解釈に再考の余地があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始期に実験室の耐震補強工事があり、実質1年間に渡り装置稼働の制限を受け、その後も装置の移動・長期保存に起因する故障の多発があった影響をまだ除去しきれていない。具体的にはアニオンの生成源の開発に遅れがあり、アニオン生成のための電子衝撃・放電時に同時生成する多量の電子が検出器に干渉し、その排除が課題となっている。 課題の他の部分は順調に進展し、特に比較対象系の測定と解析は成功を収めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最優先の課題はイオン源の改良であり、これに注力する。また、現在使用している四重極質量分析器による測定がどうしても困難な場合は、浮遊電子との分離がより容易であると考えられるリフレクトロン型質量分析器を用い、実験を行う。 イオン源の開発が進展すれば、直ちに赤外分光実験へと移行し、大サイズ領域における水アニオンクラスターの赤外スペクトル変化の挙動を探索する。 また、水アニオンクラスターの構造はクラスターの温度に大きく依存すると予想されている。クラスターの温度による構造変化を観測手法の開発が必要であり、実験がアニオンに比べて容易である比較対象系を用いて、その手法確立を試みる。具体的には2つの超音速ジェットバルブを用いた2段階冷却による低温イオンクラスター生成と、タギング法におけるタグ種の選択による内部エネルギーの可変化をテストする。
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Causes of Carryover |
イオン源開発に時間を要し、事前予測より測定回数が少なかったので、装置運転に伴うランニングコスト(消耗品費)が若干抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、次年度の物品費の一部として、使用する。全体予算の2%程の額であり、使用計画に大きな変更は不要である。
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