2014 Fiscal Year Annual Research Report
文化財建造物の伝統的な塗装彩色材料の再評価と保存・修理・資料活用に関する研究
Project/Area Number |
26289225
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
北野 信彦 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, その他 (90167370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
犬塚 将英 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (00392548)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 講師 (40409462)
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (80370998)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 欄間木彫 / 乾性油彩色 / 膠彩色 / 文化財建造物 / 江戸狩野派 / 漆塗装 / 塗装彩色材料 / 日光東照宮陽明門 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、文化財建造物に使われた伝統的な塗装彩色材料の正当な再評価を行う。そのうえで、伝統的な塗装彩色材料を修理作業に使用した場合でも劣化の防止が可能な実質的な作業方法の策定や、これらの長所を生かした新塗料開発に向けての基礎データの蓄積を図ること、さらにはこのような塗装彩色の情報を将来に生かすための資料活用の方法を策定することなどを主目的としている。以下、今年度の研究実績を述べる。 成果1:塗装彩色材料・配合比率などが記載された文化財建造物の修理記録に関する文献史料調査を実施した。本年度は、『寛政年九年塗師方本途直段、天保二年日光方諸方本途(日光東照宮所蔵)』などの文献史料の調査を行い、まず、乾性油系塗料の仕様に関する記録を見出し、その内容を纏めた。引き続き、同じ文献史料から寛政年間頃の金箔仕様に関する記録も見出し、これまでほとんど知られていなかった江戸期の金箔仕様の状況を知ることができた。 成果2:文化財建造物の塗装彩色材料の現地調査を実施した。本年度は、日光社寺建造物塗装、瑞巌寺欄間彩色、宝厳寺木彫彩色などの調査を実施した。瑞巌寺欄間彩色と宝厳寺木彫彩色は、いずれも慶長年間に制作された数少ない資料であるが、極めて類似点が多かった。とりわけ、両者とも、慶長年間に欄間の木彫を作成した当初段階は彩色を施さず、図様のメインの鳥獣箇所のみ墨線で調子付けしていた。また、先の文献史料の成果とも連動するが、日光東照宮陽明門の木彫彩色は江戸狩野派工房が行ったことが墨書記録から確認された。 成果3:塗装彩色材料調査の資料活用を実施した。本年度は、7月4~5日に宮城県産業技術総合センターにおいて、資料活用のケーススタディとして実施している瑞巌寺欄間鳳凰の三次元計測光造形樹脂レプリカ作成の取り組みについての公開展示を行った。その結果、高い一般参加者の関心を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初計画にあった文化財建造物における伝統的な塗装彩色材料の材質・技法に関する実態を明らかにするために、いくつかの具体的な文化財建造物について①修理記録に関する文献史料、②実際の文化財建造物に塗装彩色されている材料と塗装状態の現地の目視観察及び機器分析、の文理両面の手法で調査する計画を立てていた。その結果、日光東照宮建造物群では、文献史料調査で寛政年間頃の乾性油彩色と金箔の材料と施工仕様を明確にし、実際の塗装彩色材料の分析調査においても、文献記録との整合性を見出すことができた。さらに、建造物部材でもある凹凸のある欄間木彫などの意匠彩色に、従来の美術史研究では金碧障壁画を描いたことで知られる御用絵師の狩野派や長谷川派などの絵師工房が参画していることも明確になった。さらに、近世期の乾性油彩色に関する研究は、これまであまり行われてこなかったが、本年度の現地調査において、時期ごとの塗装彩色修理の材料に関する分析調査を実施したところ、日光東照宮陽明門の唐油蒔絵は、宝暦期修理では乾性油のみを使用した比較的塗膜強度もある仕様であったが、明和期もしくは安永期修理では乾性油に松脂や膠をブレンドした塗り易さはあるものの、極めて脆弱な塗膜となる材料に変更されていたことも明らかになった。また、資料活用についても研究者や技術者対応ではなく、一般の評価を知る機会を得ることができた。以上の点から、本年度の研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に文化財建造物における伝統的な塗装彩色材料として、欄間木彫などの塗装彩色材料(膠彩色)や乾性油彩色に関する調査を重点的に実施してきた。今後の研究においては、最も使用箇所が多く、かつ塗装修理では重要であるにもかかわらず、日光による紫外線劣化や風雨に対する耐候性で問題点が多い、漆塗装の諸問題についても研究対象を広げる計画である。今日、特に問題となっている文化財建造物における伝統的な漆塗装に関する案件は、①朱漆で塗装修理を実施した場合に発生する黒化染み(これは金属金具との接触部分と雨粒染み)のメカニズム解決と回避に関する諸問題、②国産漆と中国産漆の劣化度合いの違い、③漆塗料と乾性油などの混和材料の混合比率と劣化度合いとの関連性、などがあげられるため、来年度以降は、これらの仕様を想定した曝露実験用の手板試料の作成と天日曝露実験及びウエザメータを用いた曝露促進実験を行う予定である。また、資料活用については、本年度作成した瑞巌寺欄間木彫である鳳凰部分の光造形レプリカに彩色復元を行う実験を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、当初計画で資料活用の部分で謝金として復元彩色図(平面絵画)を作成するために500,000円を計上していたが、実際の作業には大幅に予算を縮小して100,000円程度で当初予定を終了することができた。そのため、その予算が次年度使用に振り替えとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には、本年度作成した瑞巌寺欄間木彫の鳳凰箇所の三次元光造形樹脂レプリカに、直接彩色復元を行い先方に納品し、資料活用に資する予定である。この作成謝金としてこの予算額を充填する計画にしている。
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