2014 Fiscal Year Annual Research Report
発達期低タンパク質栄養摂取による統合失調症関連行動異常誘発の分子基盤
Project/Area Number |
26292071
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古屋 茂樹 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00222274)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立川 正憲 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (00401810)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 栄養学 / 食品 / 脳神経疾患 / アミノ酸 / タンパク質 / 発達期低栄養 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,発達期の低タンパク質栄養制限が成熟期おいて統合失調症に伴う感覚情報フィルタリング機能障害を導く分子基盤の解明を目的としている。研究代表者は妊娠期から授乳期まで雌性マウスに食餌タンパク質含量を通常の1/2に減らしたタンパク質制限食を与えることで,次世代のF1マウスにおいて感覚情報フィルタリング機能を評価する行動試験である驚愕反応のプレパルス抑制(PPI)が制限群雌性特異的に障害されていることを明らかにした。これらの予備成果を基に,以下の項目について研究を実施した。 まずF1世代におけるBDNFを含むニューロトロフィンファミリーの遺伝子発現変化を解析した。その結果,対照群(通常食摂取)に対して制限群雌性F1個体脳においてBDNFを含む複数のニューロトロフィンファミリーの遺伝子発現変化を確認した。制限群雄性個体ではこれらの遺伝子発現変化は観察されなかったため,雌性特異的なPPI障害との強い関連性を推測している。続いてマイクロアレイ解析により,制限群F1雌性個体脳では対照群と比べ約4000遺伝子の有意な発現変化が起こっていることを見いだした。これらの遺伝子は多様なGOカテゴリーに属していた。 また,申請時に得ていたF1世代雌雄個体での脳内アミノ酸不均衡は,いずれもPPI測定後にアミノ酸分析を行っていた。PPI測定は防音装置内に拘束された状態で行われるため、一種のストレス状態にある。その影響がアミノ酸不均衡として現れている可能性を検討するため、雌雄野生型マウス(C57BL/6J)でPPI測定を行い, 非測定群と脳内遊離アミノ酸組成を比較した。その結果,制限群雌性F1個体脳特異的に変化しているアミノ酸については,いずれもPPI測定によって影響を受けないことが明らかとなった。さらに血中遊離アミノ酸とホルモン類を測定し,制限群雌性特異的に変化している分子群を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度,脳の発達と神経伝達機能の調節因子として極めて重要な役割を果たすニューロトロフィンファミリー分子が,発達期タンパク質制限群雌性個体脳において発現変化していることを同定した。変化していたニューロトロフィンファミリー分子群は,統合失調症患者死後脳でも同傾向の変化が報告されており,発達期タンパク質栄養がこれらの正常な発現維持に不可欠であることを明らかにした。これは重要な進展と考えている。更に申請時に予想していた雌性関連ホルモンについても,制限群において低下していることを見いだした。ただし本測定は発情周期を同定した上で測定する必要があるため,現段階ではまだ予備的な結果と判断している。またマイクロアレイ解析により,制限群雌性個体脳において約4000にも及ぶ遺伝子の発現変化を同定したことも本研究課題の遂行に重要な貢献を成すと考えている。遺伝子発現変化の雌性特異性,全体的傾向の把握,さらに行動異常表現型との連関解明については現在進行中であるが,発達期タンパク質制限による脳機能への影響を分子レベルで網羅的に捉えることができたことの意義は大きい。 一方で昨年度解析を予定していた血液脳関門の輸送体発現解析については,研究分担者と協力し,研究代表者が指導する大学院生が成熟雌性マウス脳より脳血管細胞の調製を試みているが,これまでにプロテオミクスに供するだけの十分な純度と量の細胞標品を得ることに成功していない。これは実験実施者が異なることに起因する手技手法の微細な違いに加え,調製に用いる機器や試薬ロットの違いによっても生じていると考えているが,原因を把握できていない。現在解析可能な純度と量を確保するために更なる条件最適化を行っている。さらに,上記の解析に制限群マウスを費やしたため,計画していたほ乳期マウスでの解析がほとんど実施できなかった。これらについては平成27年度での実施を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度の進捗状況を踏まえて,下記4項目の実施を計画している。1)から3)はこれまでの知見から着目している要因であり,個別に解析を進める。4)では,それらの結果を統合し,表現型を支配する分子基盤の解明を目指す。 1)発達期タンパク質制限群雌性特異的PPI障害に関与する遺伝子群の同定:マイクロアレイによって同定された制限群雌性脳で発現変化遺伝子についてバイオインフォマティクス解析,雄性個体脳での発現等の解析からPPI障害への寄与が推定される遺伝子の同定を行う。 2)血液脳関門アミノ酸輸送体発現解析と脳内アミノ酸不均衡の連関:発達期タンパク質制限が脳血管細胞のアミノ酸輸送体および他輸送体の発現に及ぼす影響を明らかにし,脳内アミノ酸不均衡および末梢アミノ酸恒常性変化との連関を明らかにする。さらにマイクロアレイデータから脳内アミノ酸不均衡に係るアミノ酸代謝関連酵素,調節因子、輸送体遺伝子等の発現変化を解析する。 3)制限群雌性ホルモン変化とその分子基盤:制限群雌性ホルモン変化の再現性と原因について卵巣レベルでの解析を行う。 4)PPI 障害機序としての遺伝子発現,アミノ酸不均衡,神経伝達ネットワーク機能変化の連関:上記1)から3)までの解析によって得られた結果を統合し,制限群雌性特的なPPI障害発症機序の分子基盤に係る最も合理的な仮説の構築を目指す。
|
Causes of Carryover |
初年度の研究項目を実施することにより,正常群の及び制限(実験)群マウスの組織サンプル(脳、血清,肝臓等)を大量に超低温(-80度)にて保存する必要が生じている。しかし代表者の研究室で保有する超低温冷凍庫に残余スペースがなくなってしまった。平成27年度初頭からの本研究遂行によって生じる組織サンプル保存のために、新規超低温冷凍庫の導入が必要であり,その購入に充当することが理由である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
新鮮組織凍結サンプルの保存に要す新規超低温冷凍庫および附属器具(ラック)の購入を予定している。
|
Research Products
(5 results)