2015 Fiscal Year Annual Research Report
ウシ子宮内膜スフェロイドを用いた胚性分泌因子の解明
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26292141
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山内 伸彦 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00363325)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川原 学 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70468700)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ウシ / 子宮内膜 / スフェロイド / 胚性分泌因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では経済動物であるウシを対象として、①胚によって子宮内膜で発現が誘導される遺伝子(胚性シグナル応答遺伝子)の解析、②その遺伝子発現を誘導する胚性分泌因子の同定を目的とする。 平成27年度は胚性シグナル応答遺伝子の検索を行い、次世代シーケンサー(RNAsequence解析)による網羅的な解析を行った。三つのステージ(卵胞期、黄体期および妊娠18日目の着床期)の子宮をそれぞれ5頭ずつ採取して遺伝子の調整を行い、RNAsequence解析に供した。その結果、黄体期と卵胞期をを比較すると、435遺伝子が卵胞期で、350遺伝子が黄体期でそれぞれ高い発現を示した。また、黄体期と着床期を比較すると、565遺伝子が着床期で、188遺伝子が黄体期でそれぞれ高い発現を示した。 胚性分泌因子については、妊娠18日目のウシ伸長期胚をP4添加DMEM/F12培地で24時間培養し、培養上清中に含まれるタンパク質をLC-MS/MS法で解析した。その結果、培養上清中から1091個のタンパク質が同定され、遺伝子情報へと変換してGO解析によって機能解析を行ったところ、904個の遺伝子について情報を得ることが出来た。しかし、その中には分泌性でない因子も含まれていることが示されたため、分泌性因子の特徴であるシグナル配列を有する159個の因子を胚性分泌因子として同定した。これらの因子を分類し、子宮内膜環境を制御し得るサイトカイン(INFT, FAM3C)と成長因子(MANF, MYDGF, GRN)に着目し、伸長期胚と子宮内膜組織における発現をRT-PCRによって調べた。その結果、INFT以外の全ての因子が伸長期胚と子宮内膜組織の両方で発現していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、着床期子宮で特異的に発現する遺伝子および妊娠18日目の伸長期胚が分泌するタンパク質因子の網羅的な解析を行った。それぞれの解析結果から、着床期特異的遺伝子および胚性分泌因子のプロフィールが明らかとなったが、今後のさらなる解析を進めるにあたっていくつかの問題点が示された。 まず、本研究は経済動物であるウシを用いた研究であるため遺伝子およびタンパク質のデータベースが十分でなく、アノテーション化できないものが多数認められた。RNAsquenceによる子宮の遺伝子解析では15~20%の遺伝子情報を付加することが出来なかった。これに対応するため、IPAのデータベースを用いた解析を行う予定である。これにより遺伝子情報が不明であった遺伝子の大部分はカバーできると想定され、パスウェイ解析なども行うことが可能となる。IPAのデータベースを用いてもアノテーション化できない遺伝子は個別に対応する。 分泌性因子のLC-MS/MS解析では、いまだINFT以外の伸長期胚特異的因子は同定できていない。しかしこれは、1091個のタンパク質因子のうち、遺伝子への変換が可能で機能情報を得ることができた904個の解析による結果でしかない。残りの因子については、子宮遺伝子と同様にIPAのデータベースを用いた解析を行う予定である。現在利用可能な遺伝子およびタンパク質のデータベースはヒトおよびマウスの情報が中心であり、ウシのデータベースは未だ不十分な状況にある。よって、ウシ特異的な因子は情報の付加が難しいことが予想され、機能情報のアノテーション化ができなかった残りの因子を解析することが重要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は最終年度であり、まずIPAのデータベースを用いた解析によって着床期特異的遺伝子および胚性分泌因子の同定を行うことが急務となる。着床期特異的遺伝子についてはIPAを用いたプロモーター解析およびパスウェイ解析を行い、どのような因子によってその発現が誘導されるかについて検討する。さらに、その情報を利用するとともにIPAを用いた解析を組み合わせることによって胚性分泌因子の同定を行う。 同定された因子の効果についてはウシ子宮内膜スフェロイドを用いた体外培養系で解析を行い、実際に着床期特異的遺伝子の発現が誘導され得るかについて調べる。これまでに、反芻動物の胚性分泌因子であることがすでに報告されているI 型インターフェロン(INFT)以外に新たな胚性分泌因子は同定できていない。一方で、ウシ子宮内膜スフェロイドを用いた解析により、I 型インターフェロンが子宮内膜組織内部のMMP動態を制御していることを明らかにした。この結果はINFTが着床時の組織改変を制御している可能性を示す新たな知見である。この体外培養系を用いて、新たに同定された胚性分泌因子を作用について、着床期特異的遺伝子を指標とした解析を行う。これにより、着床期の子宮機能を制御する胚性分泌因子が明らかとなる。
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Research Products
(17 results)