2014 Fiscal Year Annual Research Report
LIS1-細胞質ダイニンの分子ダイナミクスと滑脳症発症機構の解明
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26293066
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
山田 雅巳 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10322851)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 滑脳症 / LIS1 / 細胞質ダイニン / 神経細胞遊走障害 / 細胞内ロジスティクス / カルパイン阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、滑脳症発症機構の分子レベルでの解明とカルパイン阻害薬による治療薬の開発の両面からその治療戦略に挑む。研究代表者は、滑脳症の責任遺伝子産物LIS1の機能不全による細胞内物流(移動細胞内マシナリー)の攪乱・破綻に起因する神経細胞遊走の欠如の観点から、疾患発症に至る分子機構の解明を目指してきた。一方で、LIS1がタンパク質分解酵素の一つであるカルパインによって分解されることを独自に発見し、カルパイン阻害薬による滑脳症治療薬の開発を行ってきた。本研究期間内に於いては、蛍光分子イメージングの先端技術を駆使し、LIS1-細胞質ダイニンをインビトロおよび神経細胞内で可視化して微小管上での分子動態を観察・解析することにより、これらの細胞内ロジスティクスあるいは分子ダイナミクスを明らかにすることで、LIS1機能不全が如何にして滑脳症発症に繋がるのかを分子レベルで解明することを目指す。平成26年度に於いては、LIS1-細胞質ダイニンによる細胞内物質輸送の一つとして、細胞質ダイニンによって微小管マイナス端(中心体側)まで輸送されてきた種々のCargoの荷卸しの過程に着目し、細胞質ダイニン・ダイナクチンによる逆行性輸送複合体の再構成を制御する因子をインビトロ微小管グライディングアッセイにて探索した。その結果、低分子量GTPaseの一種である ARL3(ADP-ribosylation factor-like protein 3)とダイニン軽鎖LC8/DYNN1がダイナクチンと細胞質ダイニンに各々結合することによって、中心体側での輸送複合体の再編成を制御していることが示唆された。さらに、全反射照明型蛍光顕微鏡システムを用いて、インビトロおよび神経細胞内の微小管上でのこれらの分子動態を再現することに成功し、2014年10月にはNature Communicationsに論文が受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に於いては、細胞質ダイニンとそのアクセサリータンパク質の一つであるダイナクチンによる逆行性輸送によって、微小管マイナス端(中心体側)まで運搬されてきた種々のCargoの荷卸しを制御する因子を、インビトロの微小管グライディングアッセイにてスクリーニングした結果、低分子量GTPase ARL3(ADP-ribosylation factor-like protein 3)と細胞質ダイニン軽鎖LC8/DYNN1をその候補因子として同定することができた。そこで、全反射照明型蛍光顕微鏡(Total Internal Reflection Fluorescence: TIRF)による蛍光1分子イメージングを立ち上げ、インビトロあるいは細胞内に於ける微小管モーター分子あるいはその関連分子の平均速度、方向性、運動特性等を解析・評価すべく新たな実験系を確立した。具体的には、インビトロ微小管トランスポートアッセイにより、異なる3波長の量子ドット(Q-dot)で微小管モーターを含む複数のタンパク質をそれぞれ蛍光標識し、微小管上でのこれらの分子動態を再現することができるようになった。また、全反射照明型蛍光顕微鏡による蛍光1分子イメージングにより、細胞内に於いても、蛍光タンパク質を強制発現させることによって、これらの分子制御機構を大いに支持する結果を得ることができた。さらに、RNA干渉実験より、細胞内に於けるARL3あるいはLC8を特異的にノックダウンさせることによって、種々のタンパク質および細胞内小器官などの細胞内物質輸送に異常が生じることも合わせて明らかにした。これらより、平成26年度に於いて、本研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に於いては、微小管の中心体側(マイナス端)での微小管モーターからのCargoの荷卸しの過程に於いて、逆行性輸送複合体であるダイニン・ダイナクチン複合体の再編成(崩壊)を制御する因子として、低分子量GTPase ARL3(ADP-ribosylation factor-like protein 3)およびLC8/DYNN1を新規に同定した。また、RNA干渉実験より、ARL3ノックダウンは、LIS1の細胞内局在に影響を及ぼすことから、この過程は、LIS1-細胞質ダイニンによる順行性輸送複合体形成を間接的に制御する重要なステップでもあることが示唆される。平成27年度に於いては、これらの微小管関連因子の神経細胞内に於ける挙動を蛍光分子イメージングの先端技術を駆使して直接観察および解析することで、中心体近傍に於けるLIS1・ダイニン複合体の再編成、ダイニン活性調節、LIS1の中心体への集積メカニズム等を明らかにする。これによって、LIS1機能不全による神経細胞内での物質輸送の撹乱・破綻に起因した滑脳症発症機構の解明に迫る。 また、ヒト滑脳症の疾患モデル(LIS1へテロ欠損)マウス由来の神経細胞(小脳顆粒細胞の凝集塊)を用いた「インビトロ神経細胞遊走活性測定法(特願)」により、神経細胞遊走障害を改善する活性物質の網羅的解析を行う。新規活性物質については、LIS1およびダイニンの細胞内発現量および局在の変化、分子間相互作用、ダイニンの輸送活性等に対する影響を調べ、新規活性物質の標的がLIS1・ダイニンであるか、その特異性について検討する。また、LIS1ヘテロ欠損マウスを交配させて、平成28年度以降の行動解析実験に用いる十分な匹数のマウスを計画的に準備・確保する。
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Causes of Carryover |
平成26年度に於いては、蛍光分子イメージングによる新規アッセイの確立の為に、複数の蛍光タンパク質が発する波長を厳密に分光して同時に観察する必要性から、W-View光学系A8509(浜松ホトニクス)を購入した。また、平成26年度に基金分として交付申請していたものの繰越しとしては、購入を予定していた倒立型顕微鏡XY電動ステージの選定に関して、いくつかのデモを通じて、より蛍光1分子レベルでの仕様に相応しいものを慎重に検討している。実際に、いくつかのものに関しては、観察の際にステージの不安定さ等の問題が見られた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に於いては、インビトロ微小管トランスポートアッセイと細胞内での蛍光タンパク質の挙動を共に観察する。双方に於いて、蛍光1分子レベルでの仕様に相応しい、最適な倒立型顕微鏡XY電動ステージを選定すべく検討している。
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