2016 Fiscal Year Annual Research Report
臨床決断支援システムを用いた薬剤性有害事象対策の有効性に関する研究
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26293159
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
森本 剛 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (30378640)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
作間 未織 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (60349587)
太田 好紀 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (10516404)
岡本 里香 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (50775814)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 臨床決断支援システム / 薬剤性有害事象 / 医療安全 / 医療の質 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度までに実装した臨床決断支援システムの導入前及び導入後の対象入院患者について、患者の背景や、入院期間中における腎機能障害や抗菌薬による下痢などの薬剤性有害事象について分析を行った。臨床決断支援システムの導入前3ヶ月間に3203人(46369患者日)の患者が採用され、導入後3ヶ月間では3237人(46536患者日)の患者が採用された。導入前後で患者層の変化はなく、死亡退院率も前後ともに4%であった。 臨床決断支援システムの導入前後を比べると、導入後は、腎機能に基づいて用量調整が必要な薬剤において、適切な用量で処方されている適正処方率が65.6%から83.1%と有意に増加した。これに伴い、入院時に腎機能障害がない患者において、入院中のクレアチニン値が、導入前では0.02mg/dlと上昇していたのに対し、導入後は0mg/dlと上昇を防いでいたことが明らかになった。一方で、抗菌薬投与患者における下痢の頻度は導入前後ともに32%と変化がなかった。 臨床決断支援システムを医師の視点から評価する横断研究では、54%の医師がオーダーした投与量と腎機能に基づいて推奨された投与量の不一致を経験していた。一方で、41%の医師が推奨投与量について医学的理由から上書きしていることも明らかとなった。抗菌薬投与中における下痢アラートについては、アラートの結果、抗菌薬を中止したり、変更を行った医師は23%であり、抗菌薬投与患者における下痢アラートは、薬剤性有害事象対策としての効果は限定的であった。 これらの結果に基づいて、腎機能や下痢といった、直接ターゲットとした薬剤性有害事象だけではなく、腎機能に応じた適切な処方が行われた結果、肝機能障害などの他の薬剤性有害事象の発生率への影響が確認されたため、さらに分析する必要があると考え、データを増やし、平成29年度も引き続き解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度までに、予定通り臨床決断支援システムを実装し、前向きコホート研究のデータ入手を完了させた。また、医療従事者を対象とした横断研究も実施し、臨床決断支援システムの受け入れ度の評価も行った。入院期間中の腎機能障害の発生や下痢の発生頻度などの重要なアウトカム評価も完了し、学会で報告も行った。これらの結果に加えて、処方エラーが起こりやすい状況や、疑義照会の頻度などのプロセス評価について、論文として報告し、おおむね順調に進展している。しかし、実際の決断支援や警告などの動作回数、腎機能や下痢などの直接ターゲットとした薬剤性有害事象だけでなく、腎機能に応じた適切な処方が行われた結果生じる肝機能障害などの他の薬剤性有害事象の発生率への影響などについて解析を行うため、データ抽出を行ったことにより、データベースが膨大となり、これらのアウトカム評価や論文化については平成29年度に持ち越すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り臨床決断支援システムを実装し、前向きコホート研究及び医療従事者を対象とした横断研究も実施し、入院期間中の腎機能障害の発生や下痢の発生頻度などの重要なアウトカム評価、プロセス評価も実施した。これらの研究を通じて、いくつかの課題が明らかとなった。一つは抗菌薬投与患者における下痢アラートである。臨床決断支援システムの導入前後で下痢の発生率に変化はなく、医師の行動への影響が認められなかった。この原因を明らかにするため、アラートの頻度やタイミング、抗菌薬の内容や患者の状況などとの関連について分析を行い、より有効なアラートが可能かどうかについての検討が必要である。また、腎機能に応じた適切な用量の薬剤処方が行われた結果、肝機能障害などの他の薬剤性有害事象への影響の有無についても分析が必要であり、これらについて本研究のデータベースを基に、さらに解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究で得られたデータは膨大であり、現時点では腎機能障害や下痢の頻度についてのアウトカム評価を終え、また、腎機能に応じた処方を行わなければならない薬剤に対する疑義照会の分析や、横断研究による臨床決断支援システムの受け入れ度評価も終了したところである。現在、電子カルテシステムから抽出されたデータから詳細な解析を行っているが、当初の計画よりも対象診療科を全診療科に拡大し、6ヶ月間で3500人の入院患者について、毎日の診療記録や臨床検査値について分析を行っているため、作業量が多くなっている。また、実際の決断支援や警告などの動作回数、腎機能や下痢などの直接ターゲットとした薬剤性有害事象だけでなく、腎機能に応じた適切な処方が行われた結果生じる肝機能障害などの他の薬剤性有害事象の発生率への影響などについての解析も行うため、繰り越しが必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
臨床決断支援システム及び電子カルテシステムから得られた膨大なデータベースを処理するため、事務補助員を雇用し、データベースの管理、処理を行う。また、データベース専門企業とも協力し、より効率的にデータの分析を行う。これらの解析結果について、学術報告を行うための経費にも使用する。
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Research Products
(7 results)