2015 Fiscal Year Annual Research Report
中央アジアにおける大型家畜利用の再評価―ラクダ牧畜の変遷を中心に
Project/Area Number |
26300013
|
Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
今村 薫 名古屋学院大学, 現代社会学部, 教授 (40288444)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斎藤 成也 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 教授 (30192587)
石井 智美 酪農学園大学, 農学生命科学部, 教授 (50320544)
星野 仏方 酪農学園大学, 農学生命科学部, 教授 (80438366)
風戸 真理 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 講師 (90452292)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 大型家畜 / ラクダ / 生態学的調査 / 人類学的調査 / 畜産学的調査 / 中央アジア / カザフスタン |
Outline of Annual Research Achievements |
3年計画の2年度目であり、もっとも充実して研究をすすめることができた。 (1)ヒトコブラクダとフタコブラクダの分布と産業化の歴史(今村・風戸担当):ソ連時代以前は、耐寒性から、カザフスタン西南部のみにヒトコブラクダが生息し、それ以外の地域はフタコブラクダが分布していた。しかし、ソ連時代にミルク生産の観点から、東部、南部の地域でヒトコブラクダの導入が急激にすすんだ。その結果、ヒトコブラクダは耐寒性が弱いにも関わらず、東部で大量のヒトコブラクダが飼われている。一方、西部地域では、昔ながらのフタコブラクダが飼われ、小規模経営が行われている。 (2)ヒトコブラクダとフタコブラクダの遺伝子(斎藤担当):コブの形とミトコンドリアDNAが、必ずしも一致しないことが明らかになった。ヒトコブラクダとフタコブラクダが分岐したのは200万年前といわれており、これら完全な別種が家畜化の歴史を経て雑種を作出していた経緯を明らかにすることが今後の課題である。 (3)ラクダの生態学的基盤(星野担当):ラクダ牧場(ヒトコブラクダが多数派)でラクダの行動分析、植生調査を行った。ラクダが利用する牧草地の土壌と植生、行動域、餌となる植物の成分分析から、ラクダが他の家畜より、はるかに乾燥や気候変動に強い動物であることがわかった。 (4)ラクダ乳など経済的価値の評価(石井担当):家畜としてのラクダは18か月間連続して搾乳できるきわめて経済効果の高い動物であることが明らかになった。ヒトコブラクダとフタコブラクダの乳成分の分析から、フタコブラクダのほうが、脂肪分が多くカロリーが高いことがわかった。しかし、搾乳できる乳量はヒトコブラクダがフタコブラクダより2倍近く多い。このため、両方の長所を引き出そうと2種を交配させる酪農家もいる。以上、ラクダの生物学的特性、環境への耐性、経済価値、人間との歴史的関係が総合的に明らかにされた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラクダの生態学的調査から、ラクダが気候変動に強い動物であるということが再確認できた。ヒトコブラクダとフタコブラクダを比較し、乳成分の基本的な違い、さらに乳成分の季節変動も明らかになった。遺伝子の解析から、ヒトコブラクダとフタコブラクダという完全に別種の動物が交配し子孫を残すという事実が確認された。さらに、こぶの形態と遺伝子が一致しないという新発見があった。これらは人間が歴史的にラクダをともなって東西交易したことの投影である可能性がある。また、カザフスタンで採取したヒトコブラクダDNA資料に、起源の古い個体があった。これは、ラクダの起源地あるいは家畜化の過程の解明に一石を投じる発見である。 以上のような新発見がいくつもあったが、しかし、家畜飼育における経済学的側面、歴史的側面については十分に資料を収集したとはいえない。カザフスタンという国が経済統計などを公表しない国であるというハンディがあるが、できる限り資料を集めることが今後の課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、3年間の研究期間の最終年度である。したがって、これまでの研究結果をまとめ、データの足りない部分をできるだけ早く収集して研究を補強する。具体的には、ラクダ分布の不明の地域であり、DNA収集を行っていない地域であるカリブ海沿岸地域のフィールドワークを行う。また、ラクダの生態学的条件の季節変化、年変化を明らかにするために、現地調査をさらに3回行う。また、気候条件を解明するために、研究地域の過去の気候データを統計局から収得する。牧畜の経営形態の時間的空間的変化を明らかにするため、経済資料、また、ソ連時代の経営形態を記録した文献資料の解読を行う。 これらの研究成果を、各研究分担者が発表の機会を可能な限り充実させて、研究成果を口頭あるいは論文投稿の形で公表する。学際的かつ国際的な研究なので、できるだけ欧文誌に投稿する。 また、研究分担者全員でおこなう成果発表として(1)日本沙漠学会秋季大会(2016年10月15日、名古屋学院大学にて開催予定)において、「中央アジアにおけるラクダ牧畜―ラクダと人間の相互交渉の歴史と現状―」というテーマでシンポジウムを開き、研究分担者全員が講演を行う。このシンポジウムにカザフスタン側の連携・対応研究者として研究に協力してくれたヌルタジン教授を招聘し講演を要請する。(2)Journal of Arid Land Studies に研究分担者全員が英文で論文を投稿し、特集号を編纂する。 現在、ホームページ上で昨年度までの研究成果を公表しているが、ここでの情報発信を継続して行い、最新の成果を掲載するようホームページを更新していく。
|
Causes of Carryover |
当初は、植物微量成分の分析費に費用がかかるという予定だったので、予算に計上していた。この研究は、家畜が好んで食べる植物を採取し、その微量成分を分析することで、家畜生育条件を土壌と植生の観点から明らかにすることを目的としたものである。また、ラクダの乳成分との比較も行い、インプットとアウトプットの関係を明らかにするものである。 しかし、27年度は天候不順などの理由で、植物採取が思ったほどできなかった。そのため、27年度中に予算を使い切らず、次年度に繰り越すことにした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、家畜の生態学的調査の回数を増やし、3回行う予定である。こうして植物資料を十分に採取し、前年度の遅れを取り戻す予定である。
|
Research Products
(17 results)