2017 Fiscal Year Research-status Report
インド石窟美術史のための調査研究-西インド古代後期~中世前期石窟寺院を中心に-
Project/Area Number |
26300018
|
Research Institution | The Nakamura Hajime Eastern Institute |
Principal Investigator |
平岡 三保子 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 専任研究員 (00727901)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | インド美術史 / 仏教美術 / 石窟寺院 / ヒンドゥー教美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究計画は、前年度に引き続きエローラ第16窟カイラーサナータ寺院およびその周辺を含めての調査を行うこと、これらと同時代かやや遅れるエローラジャイナ教窟群およびガネーシャレーナ石窟群の調査を行うこと、比較のためマディヤ・プラデーシュ州のバーグ石窟群の調査を行うことであった。しかし、平成26~28年度の調査研究の遅れから、今回はバーグ石窟調査、エローラジャイナ教石窟、ガネーシャレーナ窟群の調査を見合わせ、その代わり前年度までに遂行できなかったデカン高原~コーンカン地方の仏教石窟群の現地調査を進めた。 クダー、マハードでは前期石窟に開かれた諸窟に後期石窟の要素がどのように後刻・後補という形で見いだせるか、またマハード唯一の後期仏教窟にどの様な様式的特徴があるか、という点に注目し資料収集を行った。クダー第8窟の特徴的な窟プランと彫像の様式を編年的に考察するための資料も収集できた。マハード後期窟はアウランガーバード後期窟との関連性がある事を確認し、資料収集を行った。 アジャンター石窟群では施錠され未公開になっている第8窟、第22窟についてインド考古局との折衝を重ね、遂に調査許可を得ることができ、アジャンター後期石窟群の最初期の様相(第8窟)と末期的様相(第22窟)の両者を資料として付加することに成功した。 ピタルコーラー石窟ではアジャンター後期窟と時代の近い壁画資料を比較研究のため収集した。エローラでは年に一度の当地の大祭と重なったため巡礼客が多く、写真撮影は困難を極め、熟覧と記録が中心となった。しかしアウランガーバード仏教石窟からエローラ第17~21窟を連続的に調査することで、これらの様式的類似性をより強く看取しうることができ、編年論への新たな視座を獲得することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成2014年から2016年にかけて、天候不順により予想以上に雨天が多く、石窟における調査が不可能・もしくは捗らない状況にしばしば陥ったこと、ASI(インド考古局)に申請した調査許可証の発行が、当局の人事異動などにより時間を要し考古局との交渉に時間を費やす必要があったこと、研究代表者が調査に利用する夏期休暇の時期(8-9月)にはインドの大規模な祭礼が処々で開催されるため、考古局が臨時休業とされたり遺跡に至る道路が封鎖されたり、あるいは祭礼を回避するため迂回路を利用することで大幅に移動時間が増えたり、祭礼に赴く巡礼者により近隣の遺跡が大変混雑し写真撮影が捗らなかったりと調査を阻む要因となった。また研究代表者が体調を崩し出張中に静養する必要があったことなど、複数の要因から計画時に予定していた調査対象石窟寺院の約半数程度しか調査を遂行することができなかった。平成2017年度は乾期の2月を利用したため雨天による障害は皆無であったが、2017年秋に日本でも報道されたように一部の都市で大気汚染が深刻化しており、研究代表者はまずデリーにおいて軽い気管支炎を患った。そのうえ上述アジャンター第8窟における特別拝観において、長い年月封鎖されていた塵埃の積もる石窟内において長時間調査した事が引き金となり、深刻な気管支ぜんそくを発症した。幸いその時点で当該年度の調査は半分以上終了していたが、この発病により、アジャンター石窟の後に予定していたエローラ石窟の調査を満足に遂行することは不可能であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度も記したように、西インドの古代後期~中世前期に属する膨大な量の石窟美術を、5年間の研究計画で包括的に扱い、とりまとめる事の難しさを再度痛感した。当初の計画では昨年度は調査対象がジャイナ教石窟であったが、過去三年においてヒンドゥー教石窟はおろか、仏教石窟ですら資料収集が十分とは言えない状況であり、ジャイナ教石窟の調査には及ばなかった。今年度の計画ではエローラ石窟の比較対象として南インドの石窟寺院を調査対象としているが、過去に遂行できなかったエローラヒンドゥー教石窟およびジャイナ教石窟の調査が中心となるため南インド諸遺跡の調査は断念せざるを得ない。今後はあらたにヒンドゥー教石窟を主体とした研究課題の立ち上げ・詳細な調査を視野に入れ、そのための予備調査という位置づけで調査対象を扱う事としたい。 当研究課題による過去の現地調査においてインド人研究者との交流が深まりつつあるものの、共同調査がなかなか実現できずにいる。これは研究代表者の資金提供に制限がある事も大きな原因となっており、今後も引き続き研究費の確保に務めねばならない。 またムンバイ周辺の大学において石窟美術を専門とするインド人研究者の数が近年増えており、日本では存在を知られていない彼らの 研究成果を積極的に紹介すること、逆にインド人に知られていない日本における仏教石窟美術の成果をインドに紹介する事も重要な課題だと考えている。
|