2015 Fiscal Year Annual Research Report
西欧教会ならびにオペラ劇場の動学的音場解析と評価・再現
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26300019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 乾 東京大学, 大学院情報学環, 准教授 (20323488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 直史 北海道大学, 情報科学研究科, 助教 (80322832)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ハルモニア / ヘテロダイン / 差分低音 / フィボナッチ共鳴 / 素数共鳴・内分共鳴 / 教会・劇場 / 伝統儀礼 / 脳認知音響計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度に実施したバイロイト祝祭劇場建造以来初めてのヴァーグナー楽劇時空間解析は十分な成果を収め、後続研究を展開することとなったが、二つの問題が明確化した。 一つは容積的に考えオペラハウスは現在の物理測定での限界に近く、ゴシック大聖堂などの測定にインパルス応答などを用いる場合、高出力の試験音波を発生させる必要があるが、そのようにして得られた結果は必ずしも人間の声や楽器音響がその空間内で響いた際の応答と一致しないことで、測定法の改善が必要であること。 いまひとつはパリで発生した自爆テロ以降、私たちが測定対象として考えている歴史的教会のいくつかがテロのターゲットになっている可能性を指摘された事である。そこでこれらを踏まえ方針を小変更し、新測定系の開発を開始、同時に新たな研究目標を立て多くの成果が得られた。 ゴシック聖堂の音響分析は西欧音楽におけるポリフォニー創発のメカニズムを探ることが本質的な目標であるが、更に音楽史を遡り古典古代西欧のハルモニア成立のメカニズムを実測とシミュレーションを併用して解析、①4分音などで定義されるエンハーモニックが差分低音のヘテロダイン共鳴で保持される事実を明らかにした ② 各種陰影音階で用いられる3分音、8分の3音などの音程も同様に差分ヘテロダインの構造を持つことを明らかにした ③ 2世紀プトレマイオスのへリコンを物理的に再現した。これは2007年A. Barkerによる再現と独立して行った2000年振りの再現である ④ ヘリコンが実現している内分共鳴を一般化、有理数次倍音を導入することで琴柱1本のモノコードから短三和音、増三和音、減三和音など多様な響きを導き出すことに成功した。これは同時にゲーテが彼の「和声学」で提起している短調のジレンマを解決したことをも意味している。琴柱を2本以上用いる分割共鳴の新たな理論枠組みと実験を引き続き継続している
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
西欧教会とオペラハウスの音響ダイナミズムをプローブとしてポリフォニーという西欧音楽の構造そのものの本質の解明が本研究の長期的な課題であるが、今年度の進展は古代ギリシャにおける「1音」Tonosの定義に物理的な共鳴実体を与え、そこから敷衍してハルモニアとクロマティズムのすべてに音楽音響の基礎付けを与える事が出来たという意味で歴史的価値を有する。すなわち従来は「完全4度と完全5度の間に生まれる音程差」を「一音」と定義し、古典的な弦長の比で考察されていた古代音楽学に19世紀以降のフーリエ解析の手法を導入、振動数比8:9のトノスが差分音程1=8の3オクターヴ下に相当する唸り=差分低音を同時に鳴らすために安定共鳴する事実を古典音楽学に導入、同様の手法(ヘテロダイン共鳴解析)で古典古代ハルモニアの一通りの問題系を一挙に解決することが出来た。詳細については来年度以降の継続的に研究の深化を進める。 ハルモニア研究の対象であるプトレマイオス「ヘリコン」の再現からは、一般に自然数で示される倍音インデックスを有理数=分数に拡張し「内分共鳴」の構造を一般化することで、近代以降の三幹音を基礎とする和声とはまったくことなる「内分共鳴」現象を一般化し、副産物として別の古典的問題の解決が得られた。J.W.von Goetheは世界各地の民族舞踊の少なく見積もっても半分が短調の響きを持つのに、自然倍音列からは短三和音が容易に得られないジレンマに気づき問題として提示したが解決することは無かった。差分共鳴の観点から一弦琴を分割すると元の弦長と内分2弦長はフィボナッチ数列をなす。ここから2:3:5あるいは3;5;8という基本的な短三和音の数比を一弦琴上で再現、ゲーテのジレンマを解決するとともに素数共鳴などの基本的な現象を発見、体系化の仕事に着手している。建築音響の脳認知を用いた測定に関しても新たな開発に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
2011-13年の前回科研を継続してバイロイト祝祭劇場の音楽音響ダイナミクスの解明までの範囲については空間音響を生かした指揮メソッドのテクストとして東京大学出版会から英文の教科書を公刊する。ハルモニアのヘテロダイン解析に関してはより細かな計算機実験と実測を継続する(とともに、バイロイトの成果と併せて「ひらめき☆ときめき サイエンス」を2017年1月に実施、中学高校生にも理解・体感出来る基礎的なカリキュラムとして確立すると共に欧文の標準的な教科書を専門論文類と並行して(英国の大学出版会から)公刊の予定である。 今年度は2011年時点から測定を打診しつつ、2017年マルチン・ルターらによる宗教改革500年まで全面改修のため閉鎖されているヴィッテンベルクの二つの教会(城砦教会、マリア教会)の2017年度以降の実測を念頭に、空間音響のヒト脳認知をプローブとする全く新しい測定手法の確立を目指して予備的な実験と研究を進める。 やはり筆者らが発見した「構造音色」をめぐる議論では、狭域に密集した正弦波クラスターによって実現される「音のつや」構造音色感がヒト聴覚認知の空間認識と深く関わりがあることがすでに予備実験から示唆されており、全頭測定での構造音色認知、ならびにシニュソイダルモデルによる音素分解と再合成から得られるデータの言語/非言語認知による知覚相転移などの諸問題をより踏み込んでつまびらかにする。 2011年からの取り組みで作り上げた「時間に依存する6軸相関解析」による時空間評価システムについても、システムの高度化ならびに並行する他手法との対照を高度化させる。これらすべて東京大学作曲指揮研究室がゼロから開発した諸手法であるが、これらをすべて同時併用する時空間解析を機材の制約からまず日本国内で行い、統合システムとして確立すると共に、2017年以降、欧州フィールドでの継続研究展開に備える。
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Causes of Carryover |
北海道大学 青木助教の分担については、大半を青木氏自身の研究費を持って平成27年度分の研究が遂行された。このため、残額を繰越しして平成28年度に継続研究することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度、北海道と東京の往復旅費(2回程度)ならびに青木助教の分担する音響分析システム(PC、ソフトウエア、消耗品)構築費として、次年度使用額を適正に執行する。
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Remarks |
ISTD-JTDは7th symposium リンク以下をご参照のこと。
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Research Products
(22 results)