2014 Fiscal Year Annual Research Report
ASEAN経済統合・EPA下の医療保健人材の東アジア域内移動と職場適応の実証研究
Project/Area Number |
26300037
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
奥島 美夏 天理大学, 国際学部, 准教授 (10337751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永井 史男 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10281106)
金子 勝規 大阪市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (10708085)
池田 光穂 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (40211718)
石川 陽子 首都大学東京, その他の研究科, 准教授 (40453039)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 社会学 / 経済学 / 保健医療 / 移住労働 / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクト初年度にあたる2014年度は、全体方針の検討を研究会議にて行い、予備的現地調査を国内外にて開始した。その中間報告として、タイ・インドネシア・ベトナムの保健医療およびその人材派遣・移住労働に関する政策と法制度的枠組の現状・動向変化についてまとめ、移民政策学会シンポジウムや日本看護科学学会学術集会交流集会、各自の学内研究会議などで報告し、さらに『アジア研究』(アジア政経学会学会誌)における特集論文3本を刊行する機会に恵まれた。 一方、講師招聘によるワークショップ・輪読研究は、ASEAN経済統合にあわせて次年度以降の公開ワークショップにて実施することとした。その可能性を探るため、タイ保健省職員との意見交換、また次年度のワークショップへの招聘のうちあわせを行い(2014年9月、永井)、またカンボジア・タイ現地調査でカンボジア保健省、私立病院、タイ保健省、高齢者向けクリニックなどを訪問・ヒアリングした(2015年3月、金子)。インドネシアでは、国立パジャジャラン大学看護学部において日本のEPAを通じた看護師受け入れ制度とその問題点についてワークショップを行い(2014年9月、奥島)、またいくつかの現地医療法人の視察も実施した(2015年1~3月、奥島、研究協力者の奥田)。また、国内も含めた保健医療人材とその患者などへの聞き取り調査、参与観察も進められている(池田、石川、ほか)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクト申請時に目標としていた、各国における労働法(雇用法や移住労働者・在外同胞の保護法を含む)、及び医師法・看護師法などの基礎研究・比較については、タイ・インドネシア・ベトナムの事例の整理が進み、上記「研究実績の概要」で述べた諸学会における報告、学会誌上での成果発表もすでに実現しており順調である。また、ASEAN経済統合の具体的な協力項目(関税撤廃、安全保障、職業相互認証など)や、同経済共同体(AEC)を基盤としてさらに東アジアや周辺諸国へ広げた重層的・多層的地域協力との関係についての整理も随時進めている。外部講師の招聘などについては、ASEAN統合実施が予定される次年度に照準を合わせて公開ワークショップ(あるいは学会などにおけるシンポジウム、パネルなど)を開催し、外部の研究者・現場関係者などとも広く連携・交流することによって、より効率的な研究調査を展開するため、本年度はその実績づくり、およびうちあわせ・情報交換に専念し、準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目にあたる2015年度は、ASEAN経済統合実現に伴う社会変化・混乱が予想され、 統合前後の時期を中心に、各国でどのような論議が行われ、動向変化をみせるのかを、仔細に参与観察・記録することが重要になる。基軸となるのは主要受け入れ国であるシンガポールやマレーシア、主要送り出し国であるフィリピンやインドネシアであるが、それらに加えて新興送出国ベトナム、カンボジア、ミャンマーなどの対応も注目される。研究協力者の新美(在ホーチミン日本領事館職員)などの助力を通じて、年度後半には日本・ドイツなどへの看護師・介護福祉士候補の派遣を開始したベトナムにおける共同調査も検討している。また、上記「現在までの達成度」で述べたとおり、2015年度後半にはタイ保健省職員などを招聘して公開ワークショップを行う方向で進めている。 現地調査においては、看護・介護に携わる個々人の生い立ちや学歴、家族・親族関係、経済状況、職場文化、ライフサイクル、日本とその他の受け入れ諸国に対する要望やイメージといった、より個別事例の参与観察・聞き取り調査にもふみ込んでいく。最大の課題は保健医療人材の受け入れ社会における適応・定着化であり、対人ケアのための高度な言語力および技能の習得にコストがかかるため、先進諸国は研修制度的な形での人材受け入れをとらざるをえないが、現地人・外国人という職業の二層化が当然ながら懸念されている。日本においても、安倍政権下で介護や家事の外国人人材の技能実習制度を開設する方向で審議が進められており、人権保護や移民政策の観点から関連省庁・市民団体の反対意見も多い。こうした現状でどのような解決策・妥協点がありえるのかを模索する。
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Causes of Carryover |
実績報告で述べたとおり、本年度は複数の学会における報告と議論、および学会誌への成果報告が実現したため、当初の予定よりも現地調査や研究会議・ワークショップを縮小して、その作業に専念することを優先した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実績報告で述べたとおり、次年度に諸外国からの招聘者も交えての公開したワークショップを予定しているため、招聘者旅費・会議費などの支出に備えて繰り越すこととした。また、もしそれでもなお余裕があれば、ベトナムにおける共同現地調査の必要経費にも使用する予定である。
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