2016 Fiscal Year Annual Research Report
日本中小企業のアジア域内における分業構造とリバース・イノベーションとの関係性
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26301025
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
吉田 健太郎 立正大学, 経営学部, 准教授 (70513836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 博義 立正大学, 経営学部, 准教授 (00514960)
高橋 俊一 立正大学, 経営学部, 准教授 (00547896)
中山 健 横浜市立大学, 総合科学部, 教授 (50248829)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中小企業 / リバースイノベーション / 産業集積 / 知識移転 / 組織学習 / 国際経営 / 海外展開 / マネジメント・コントロール |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究会開催】本年度は、合計10回の研究会を実施した。研究会の内容としては、調査結果や仮説の構築・検証について議論を行った。先行研究(国際経営論・中小企業論・マネジメントコントロール論)&アンケート調査をもとに研究会で議論を重ねて仮説を構築し、現地調査で定性的手法に基づき検証を試みた。この結果、知識移転のあり方、学習のあり方が鍵を握ること、海外展開を契機とする戦略(販路開拓・新商品開発)と人的資源管理(人材育成)との両輪の運用がポイントであることが研究会で確認された。 【現地調査】本年度の海外現地調査は、タイ王国(3回)、英国、ベルギー、フランスの4カ国で実施した。国内現地調査は、佐賀県(1回)、沖縄県(1回)にて実施した。タイ王国では、これまで調査してきた企業へ継続的にヒアリングを実施することで、関係性も構築され、内部資料の提供など研究に有用な資料が得られた。同時に新規の調査先企業にもヒアリングを実施した。英国では、JETROロンドン、日系中小企業へのヒアリング調査を行い、イタリアのケースと同様にヨーロッパへの日系中小企業の海外展開とリバース・イノベーションについて調査を行った。ベルギー、フランスでは、欧州での日本人起業家および日系中小企業へのインタビュー調査を行い、日本人(起業家)による日本から、また日本へのビジネスモデルやマーケティング等の逆流戦略についてヒアリングを行った。最終年度に実施予定のロンドン大学との共同研究についての打ち合わせも行った。 【論文掲載・学会発表】 論文発表は国内学術誌に2本、海外ジャーナルに1本掲載された。また、国内学術誌に1本の論文が掲載予定である。書評が1本掲載されている。学会発表については、日本経営学会(専修大学)での口頭発表を行った。討論者として日本地域経済学会(駒沢大学)にて登壇した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度までの研究において、先行研究となるゴビンダラジャン『リバース・イノベーション』(2012、ダイヤモンド社)の概念整理と限界の検討、そしてアジア域へ海外展開している日系中小企業への現地調査、イタリア、英国に展開している日系中小企業への現地調査を通して、本研究会における『リバース・イノベーション』の概念を再定義した。これに基づいて、仮説の構築、検証作業へとステップを進めるなかで課題となった中小企業へのアンケート調査に基づいた実態の把握と分析について、本年度実施することができたことは研究会として大きな前進であった。 2016年1月20~22日(Web調査会社に委託)にアンケートを実施した。調査名は「大企業と中小企業の海外市場向け製品(商品)開発に関するアンケート調査」であり、調査対象は海外市場向け完成品(商品・製品)を製造する日本企業(従業員20人以下の小規模企業を除く)の企画・開発従事者である。有効回収数は中小企業200票、大企業200票である。アンケート結果の詳細は、中山健「中小企業のリバース・イノベーションー大企業との比較分析ー」、『横浜市立大学論叢. 社会科学系列』 横濱市立大學學術研究會編. 横浜市立大学、2017年9月、として刊行予定である。 研究会ではこのアンケート調査の分析結果をもとに、仮説をブラッシュアップさせ、事例企業への深い聞き取り調査によって現地調査で得られた定性的なデータとを照らし合わせることで、多くの知見を得ることができた。この結果、日系中小企業のリバース・イノベーションには、知識移転のあり方、学習のあり方が重要であり、海外展開を契機とする戦略(販路開拓・新商品開発)と人的資源管理(人材育成)との両輪の運用が必要となることが明らかになった。一方で課題としては、リバース・イノベーションの成功事例の少なさからサンプル数の限界があげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる4年目は、研究会の成果として執筆予定の著書「中小企業のリバースイノベーション:中小企業の新たな国際経営戦略」(仮)の執筆活動と各章の調整に向けた議論が研究会の中心となる。 また、これまでの研究で明らかになっている課題についての検討も必要となる。具体的な課題としては、現在までの進捗状況でも触れた、日系中小企業のリバース・イノベーション成功事例の少なさからの検証サンプル数の限界があげられる。一般化に向けて、可能な限り母数を増やして検証作業を行う必要性を認識している。 成果をまとめていく上で、上記へ認識と同時に留意しなくてはならない点が2つある。一つは、中小企業研究ゆえの適切な方法論を選択する必要性と、もう一つは日本の中小企業の経営特性を踏まえた分析を行うこと、である。規模的特性を共通としつつも多様な中小企業の実態を体系立てて捉えようとする中小企業研究には、個々の実態への深い理解を捉えることが重要となる。日本の「中小企業経営」に関わる分野は、複雑な学際領域が複雑に混ざり合う分野である。一つの事例を深く掘り下げ実態への理解を深める作業が不可欠となる。労を惜しまず足で稼ぎだし、現実の問題を紐解く確認作業を引き続き実施する。また、欧米の多国籍企業を対象として蓄積されてきた国際経営の理論をそのまま日本の企業、とりわけ、中小企業に適用しようとしてもうまく機能するはずはない。日本の中小企業の歴史的特徴と経営特性を踏まえたハイブリッド型の理論の構築が不可欠となる。 以上のことを踏まえ、これまでの研究で明らかになった課題についてさらなる検討を行うとともにより進化(深化)を試み、フォロアップの現地調査を行い、最終成果物である著書の執筆と、各研究者の原稿を付き合わせての議論を行う。国際学会、国内学会での報告も行う予定である。
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Causes of Carryover |
調査予定の企業へのアポイントメントが取れなかったため、海外現地調査を延期している。このため、次年度に繰り越す額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アポイントメントが取れ次第、現地調査を実施する予定である。
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