2015 Fiscal Year Annual Research Report
ミャンマーの高い漁業生産を支える海洋環境と潜在的リスクの評価
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26304031
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (30265722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨山 毅 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (20576897)
圦本 達也 国立研究開発法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (90372002)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ミャンマー / 基礎生産 / 濁質 / 雨季 / マングローブ / タチウオ / 植物プランクトン / 河川水 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年5月にヤンゴン及びミエックで漁獲されたタチウオ類の調査を行った。DNAバーコーディングにより、少なくとも3属5種が含まれることがわかった。また,小型個体では主に甲殻類、大型個体では主に魚類や頭足類を摂食していた。その後,9月にミエックに再度赴き,これまで実施してきた雨季直後~乾季の海洋調査結果に照らし合わせるために,雨季最中の基礎生産調査を行った。その結果,雨季には沿岸の塩分が最大でも24.8であり,大量の河川流入水の影響を受けること,その河川水から大量の濁質が沿岸にもたらされ,水中消散係数は平均2.3/mと著しい濁りの影響を受けることが判明した。この濁りの影響による基礎生産の低下は顕著で,乾季のたった6.6%しかなかった。基礎生産者の主体は,日本の冬期によく出現する高栄養塩要求性・低照度耐性をもつ珪藻類であり,雨季の環境(高栄養塩・低照度)をよく反映していた。同時に,Kadan Island周辺海域で採取した表層堆積物中の海産パリノモルフ群集を解析した.その結果,渦鞭毛藻シストが少なく,代わって微小有孔虫類や有鐘繊毛虫類が優占することが判明した.この群集組成はマレーシア・セランゴール海域の表層堆積物中の海産パリノモルフ群集のそれと類似していた。温帯域での海産パリノモルフ群集は渦鞭毛藻シストが多産しているが,それとの相違の要因や熱帯域での海産パリノモルフ群集解析の有効活用法についてJIRCASワークショップで発表した。平成28年5月には再度ミエックを訪れ,主にマングローブ域の調査を行った。マングローブ底泥上には多量の微細藻類が分布しており,それが潮汐の影響により水中に懸濁し,基礎生産の多くを担っている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
外国人が調査を行うことがむずかしいミャンマーにおいて,昨年に引き続き現地海洋調査を行うことができた。また,魚類の専門家により現地の重要漁獲対象種であるタチウオの調査も実施することができた。 今回の海洋調査で,「雨季」が招く海洋基礎生産の低下要因が理解された。例えば日本においては,梅雨は河川流量を増やし,沿岸に栄養を供給し,その基礎生産を向上させる。一方,ミャンマーにおいて河川から栄養塩がもたらされることは同じだが,同時に大量の濁質を沿岸に運び,まるで沿岸全体を味噌汁のような濁った海に変えてしまう。消散係数2.3とは,水深1 mでほぼ日光が届かなくなるような顕著な濁りであり,このような濁りが海域全体を覆えば基礎生産の低下は避けられない。ミャンマーにおいてこのような雨季の影響はほぼ半年続く。これが彼の地の海域の生物生産性を下げている要因だと考えられる。すなわち,当初想像していた「多量の河川水が流れ込むミャンマー沿岸は生産性が高い」という仮説は覆され,実は「半年以上の期間,大量の濁質が沿岸を覆う生産性の低い海」であり「河川水の影響が少なくなる乾季の一時期のみ生産性が回復する」にいう実態が判明した。一方,長く続く濁りが植物プランクトンの生産を阻害するが,その代わりに光を必要としない原生動物が多く出現するという事実も判明した。自然は巧みである。光が足りず植物による基礎生産が抑えられても,原生動物がそれにとって代わり,基礎生産者として役割を果たしている可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の調査によって,ミャンマー随一の漁獲量を誇るミエック沿岸の生物生産構造が理解できた。また,雨季における濁質流入が基礎生産を大きく下げていることが強く示唆された。この濁質は,ミエック沿岸に大きく口を開けるタニンダーリ川に由来するが,この大量の濁質は自然現象なのだろうか?この点についてさらなる調査が必要だと考える。おそらくこの濁質は,タニンダーリ川流域の土壌浸食に起因と考えている。タニンダーリ川流域は世界第三位の「森林破壊地域」であり(FAO, 2015),ゴム・アブラヤシの大プランテーション域である(Zockler et al. 2013)。プランテーション森では雨が直接土壌を叩き,土壌を浸食する現象がよく知られる。また,マングローブ林が河川由来の濁質の80%以上をトラップするという報告結果(Furukawa et al., 1997)を鑑みると,流域の深刻なマングローブ伐採(Lewin 2009)も関連するのかもしれない。この様な沿岸の基礎生産を著しく下げる「森と川のつながり」にも研究の目を向けるべきである。 また,これまでの調査を通じて,よく発達したマングローブ水路には大量の天然カキのバイオマスがあることがわかった。これは,植物プランクトンの生産は少ないかもしれないが,水路に多量に存在するであろう有機粒子によって支えられている。カキの需要は現地でも大きく,それを専門に漁獲する漁業者もいる。しかしいかんせん天然資源に依存した漁業であり,また,フーカ潜水によって漁獲するために危険性が大きい。この天然のバイオマスを利用し,より安全に漁業が営めるようなカキ養殖の提言ができるかもしれない。
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Causes of Carryover |
平成27年11月,ミャンマーの総選挙結果(大幅な政権交代)の影響を受け,現地水産局の協力者から,平成28年3月に予定していた乾季調査への協力を断られた。しかし平成28年5月には現地水産局の新担当者が確定するであろうとの見込みの元,3月に計画していた調査を翌年度の5月に延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年5月に実施した現地調査の旅費,庸船費,謝金とした。
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Research Products
(7 results)