2016 Fiscal Year Annual Research Report
ミャンマーの高い漁業生産を支える海洋環境と潜在的リスクの評価
Project/Area Number |
26304031
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (30265722)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨山 毅 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (20576897)
圦本 達也 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (90372002)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ミャンマー / 海洋環境 / 基礎生産 / 珪藻 / マングローブ / ミエック / ベイ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに実施したミエック沖における海洋環境調査及び基礎生産調査の結果を詳細に解析し,とりまとめたところ,以下の発見がなされた;まず,基礎生産に関しては乾季(3月)が一番高く,その単位面積あたりの生産量は2.59 gC/m2/dayにも及ぶこと,その基礎生産は大型の連鎖珪藻群が担うこと,一方,乾季の後に長く続く(約半年)雨季においては基礎生産速度は乾季の7%程度にまで落ち込むこと,雨季の直後(乾季のはじまり;12月)には基礎生産は急激に上昇するが,それでも3月の半分程の1.39 gC/m2/dayであること,などである。すなわち,基礎生産性が高いのは一年のうちの乾季終期三ヶ月というごく短い時期であり,このことから,年間の基礎生産量は約129.6 gC/m2/yearという低い値に留まった。高い栄養塩レベルを鑑みると,同海域は富栄養化海域にカテゴライズされ,その代表的な生産量レベル(300-500 gC/m2/year)に届いても良いはずである。しかしながらその約半分にも満たないと言う事実は,雨季の著しい基礎生産の低さを誘導する要因~前年度でも考察したように雨季の大量の濁質流入にともなう高濁度化~がこの海域の基礎生産性,ひいては魚類生産性全般を下げていると考察された。以上の成果は現地大学および水産局の研究者と共有し,海域の高濁度化を招く要因の排除(プランテーションに伴う過度な森林伐採,マングローブ林の過剰伐採)に関してこれからも連携していくことを確認した。 この研究が土台となり,日本の国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターが主体となって開始される,日本―ミャンマーの水産プロジェクト(マングローブ域における持続的な水産養殖プロジェクト)の発足に貢献できたことも実績として挙げておきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この科研費を受けて実施した,おそらく世界で初めてのミエックでの海洋環境調査の過程で,現地の関係者およびミャンマー政府と極めて有機的な関係を構築することができた。ミャンマーは未だ閉ざされた国であり,外国人が勝手に自国沿岸での科学的調査を行うことを認めていない。そのような状況下では,まずは人的信頼関係の構築が第一であり,これが今回の大きな成果のひとつである。その結果,科研費単発の調査ではなく,日本ーミャンマーの大型水産プロジェクトにつながったことも評価されて良い。 科学的には,当初生物生産性が高い思われていたミエック沿岸が,実はそうではなかったということを見出したことが大きな成果であると考える。この生物生産性を阻害する要因は,河川からの大量の濁質の流入であり,それは森林やマングローブ林の過剰伐採に起因する可能性が高い。河川の真水に含まれる濁質は,沿岸に流出した後,浅く広く沿岸の水柱を覆う。まさに広大な遮光幕であり,いくら栄養塩濃度が高かろうが太陽光の差し込まない水柱では基礎生産は期待できない。この様に,わが国ではおそらく目にすることがないであろう「著しく濁った海」が基礎生産を実際に下げてしまうことを実証し,陸地と沿岸の連結性について議論できたこと,そしてそれをいくつかの学術論文としてまとめることができ,ミャンマーというローカルな事象の紹介のみならず,世界の注目を集める成果になったと思う。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究が土台となり開始される,国際農林水産業研究センターが主導する水産プロジェクトが開始される。このプロジェクトと共同する形で研究を推進してゆく。 学術的には,河川流入濁質が沿岸の基礎生産性を著しく下げることが実証された。すでにSyvitskiらによってアジアの河川が沿岸を覆う濁質の起源であり,それが沿岸の生態系・生産性を下げていることが示唆されている(Syvitski et al. 2005. Science)。この様な現象は世界各地,しかも森林・マングローブ伐採,プランテーション問題が集中する熱帯の大陸沿岸に顕著であろう。無秩序に繰り返される陸域の開発が,人類への食料供給源として重要な沿岸漁業を衰退させているであろう事実の認識と解決は,21世紀に人類が取り組むべく課題のひとつである。本研究におけるミャンマーの調査によってひとつのケーススタディが示され、今後そのモニタリングを更に進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
平成28年度末に現地を訪問し,成果の還元をはかり,本研究を土台とした日本・ミャンマーの水産プロジェクトのキックオフを行う予定にしていた。しかし,ミャンマーの政権委譲後,共同研究相手のミエック大学との研究覚書締結に長い時間を要していたため,年度末の現地訪問を延期した。また,成果の一部をさらに公表するために,さらなる解析・論文執筆にかかる経費を繰り越したいと考えた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度4月に現地を訪問し,成果の還元と,本研究を土台とした水産プロジェクトのキックオフミーティングを行う。また,これまで得た試料を用いた解析と論文投稿を進める。
|
Research Products
(7 results)
-
-
[Journal Article] Seasonal dynamics influencing coastal primary production and phytoplankton communities along the southern Myanmar coast2017
Author(s)
Maung-Saw-Htoo-Thaw, Ohara S, Matsuoka K, Yurimoto T, Higo S, Khin-Ko-Lay, Win-Kyaing, Myint-Shwe, Sein-Thaung, Yin-Yin-Htay, Nang-Mya-Han, Khin-Maung-Cho, Si-Si-Hla-Bu, Swe-Thwin, Koike K
-
Journal Title
Journal of Oceanography
Volume: 73
Pages: 1-9
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
-
-
-
-
-