2016 Fiscal Year Research-status Report
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26330340
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
大内 則幸 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (30370365)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発がん / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
提案した課題は、発がん過程における突然変異の蓄積が変異細胞に起こした表現型の変化が、がん細胞の増殖にどのように寄与するか?を数理モデルを用いて系統的に調べるというものである。それぞれの細胞は変形する境界を持つ、細胞の物理的性質(細胞膜の変形による弾性力や表面張力、細胞間の接着)をベースに細胞の集合をモデル化したセルラーポッツモデル(CPM)を用いて、突然変異を確率的に記述した発がんのマルチステージ方程式を用いてがん化過程をモデル化している。 ヒトにおける発がんは、腫瘍が検知されて初めて決定されるため、その経過に関しては不知である場合がほとんどである。現在、広く使われている発がん過程のモデルは、正常細胞に時間と共に突然変異が生じ、その突然変異が蓄積することにより、機能が正常性を失ってがん細胞が生じ、最終的に増殖して腫瘍となるというものである。実際の大腸がんにおいて、細胞がん化の段階ごとに重要な遺伝子の突然変異も認められている。したがって、通常の発がんリスク計算モデルにおいては、細胞ががん化する過程は長い時間かけて生じた突然変異の蓄積によるものであり、時間がたてば必ずがん化、悪性化へ進む事になる。果たして現実のがん化過程は、そのような一本道で決定されるのだろうか?大腸がん患者に対する疫学調査において、がん患者から腫瘍を取り出して突然変異の種類を調べた結果、同じがんでも患者ごとに生じている突然変異の種類や組合せが異なっていることが判明した。つまり、実際の発がん過程はモデルで考えられているような一本道なものではないことがわかる。 そこで、数百程度の細胞数で物理的な表現型変化に対する細胞がん化および腫瘍形成に関して計算機シミュレーションを行った結果、予備的な結果ではあるが正常細胞からの変異の種類によって、腫瘍が発生する場合としない場合がある事がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発がん過程のシミュレーションを行うにあたり、突然変異ダイナミクスを突然変異多段階モデルで記述しているが、研究の主旨として突然変異の「蓄積数」のみではなく、その結果生じた表現型の変化を調べる必要があるため、表現型の異なる複数種類の細胞の数理モデルが必要になる。そこで、モデルで考える突然変異により変化する細胞の性質(表現型)として、膜たんぱくの変異による細胞の弾性力の変化に加え、接着力の変化の2種類を用い、細胞の種類は弾性力(固さ)と接着力の2つのパラメータの組合せで記述した。実際、固さと接着力は連続的な物理量であるためその組合せは無限に存在するが、正常細胞ががん細胞に変異するまでのステージ数を2ステージと簡単化する事で(実際のステージ数は、がんの種類に依存すると考えられている)、それぞれ相対的に固い細胞、柔らかい細胞、さらに接着力も強い細胞、弱い細胞、と考え、それらの組合せで構築した4種類の細胞をモデル化した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、モデル化した個々の細胞の動的統計量を計算することで、その物理的性質と動態を調べる。さらに、多段階モデルで細胞がん化、および腫瘍の形成をシミュレーションし、突然変異とその表現型変化の腫瘍成長への寄与について調べる。 また、近年発がんに対する寄与が調べられている「細胞競合」現象との対応について議論し、論文にまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
提案したテーマは、突然変異に伴う細胞の表現型変化ががん化過程に及ぼす影響に関して検証することが目的の一つであるが、シミュレーションから得られた結果が、近年注目され始めた「細胞競合」のものと非常に類似していることに気が付いた。 そこで、当初予定に追加して遂行中のテーマ「質的変化が与える影響」という観点で細胞競合現象を説明し、シミュレーション計算を行い論文にまとめて投稿したいと考えた為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シミュレーションのデータをまとめる為にPCの購入、および論文投稿費用として使用する予定である。また細胞競合関連の文献やシミュレーションで得られたデータを可視化するソフトウェア等の購入。
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