2014 Fiscal Year Research-status Report
日本南西諸島に分布するホンハブの島嶼環境適応の検証
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26340095
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
千々岩 崇仁 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (30331060)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
粗毒の採集が完了していないため、毒タンパク質の比較実験はまだ着手出来ていない。一方で、予備の臓器を用いたゲノムPCRによる筋壊死ホスホリパーゼA2遺伝子の比較解析が次の成果に寄与した。 「Interisland variegation of venom [Lys49]phospholipase A2 isozyme genes in Protobothrops genus snakes in the southwestern islands of Japan (Toxicon. 2015 5月末投稿予定)」 ホスホリパーゼA2(PLA2)はCa2+依存的にグリセロリン脂質を加水分解する酵素だが、ヘビ粗毒にはこのCa2+結合部位である49番目のアミノ酸がアスパラギン酸とは正反対の荷電をもつリシンとなった[Lys49]PLA2が低いリパーゼ活性にも関わらず強い筋壊死因子として含まれる。今回、この[Lys49]PLA2が南西諸島最北端のトカラハブでは1つ、奄美大島ハブでは3つ、徳之島ハブでは2つ、沖縄ハブでは欠失しており、最南端のサキシマハブでは新奇の[Arg49]PLA2となっていることを見出し、それらのゲノム遺伝子をクローニングして構造を比較したところ、[Lys49]PLA2遺伝子の島嶼特異的なコピー数と分子進化に寄与したと考えられるレトロトランスポゾンを同定し、その分子機序を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究が進んでいない最大の理由はハブ毒の採取が難航しているためである。まず、高田爬虫類研究所の大谷氏と行う予定だった捕獲と飼育について、採毒後の毒腺摘出などの作業環境を考え、捕獲後の飼育を沖縄衛生研で行うことに変更した。その上で、平成26年夏に課題の沖縄本島北部(国頭産に変更)と南部(糸満)のハブを捕獲し、沖縄衛生研にて飼育を開始した。ただし、予想以上に野生が強く、捕獲後すぐに採毒を開始すると衰弱死してしまう可能性が考えられた。粗毒のロット(個体特異性)も比較項目であったため、十分な馴化飼育を行った上で、同一個体からの連続採毒を行うことにした。幸い、昨年度末から始めた採毒は順調に進んでいるとのことで(3月末で数 ミリリットル相当と連絡を受けている)、2015年5月17日に訪沖して粗毒を受け取るとともに、同一個体の毒腺も採取して帰ることになっている。 待機している間に、奄美ハブの粗毒を用い、ゲル濾過からイオン交換までの条件を合わせた比較実験系を調整済みである。 捕獲を島民に依頼してあった渡嘉敷島のハブは、平成26年度中は生け捕り個体を得ることができなかった。平成27年度も引き続き捕獲を依頼しているが、高田爬虫類研究所の大谷氏と衛生研の協力のもと研究代表者自身で捕獲に赴くことも検討している。 一方で、平成24年度より着手していた日本南西諸島ハブ属ヘビでは筋壊死毒[Lys49]PLA2の組成が島嶼特異的な遺伝子のコピー数変化に関与したと考えられるレトロトランスポゾンを同定、論文として2015年5月中に投稿予定である。 更に、島嶼のハブ間の生物学的系統関係を明らかにするためにトカラハブ、奄美大島/徳之島/沖縄ハブ、サキシマハブの各数個体のミトコンドリアDNAの塩基配列の比較解析を九州大学生体防御医学研究所の柴田弘紀准教授が行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年5月17日に沖縄衛生研より持ち帰ったハブ粗毒は条件検討が済んだクロマトグラフィーで分画する。各画分タンパク質は、1)SDS-PAGEと独自に調整した抗PLA2アイソザイム抗体によるスクリーニング、2)HPLCによる同質性の確認を行った後、nativeタンパク質のN末端及び断片化ペプチドの内部配列などを順次決定していく(これらは平成28年度いっぱいまで続ける)。並行して毒腺よりmRNAを精製してcDNAライブラリーを作成し、スクリーニングによって毒PLA2アイソザイムをコードするクローンを網羅的に収集・解析する(全貌は平成27年度中に得られると予測している)。 得られた成果は27年度、28年度の各年末の分子生物学会で報告するとともに、論文にまとめて平成28年度末には投稿する予定である。ミトコンドリアDNAによる南西諸島ハブ属ヘビの系統関係についても論文にまとめて同じく平成29年度中に投稿する予定と聞いている。 渡嘉敷島ハブは、引き続き島民による駆除個体が届けられるのを待つが、高田爬虫類研究所の大谷氏と沖縄衛生研の協力のもと研究代表者自身で捕獲に行くことを検討している。
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Causes of Carryover |
今回、予算の使途と金額を変更し、平成26~27年度にまたがって「ルミノグラフWSE-6100H-CSP」を購入した。ウエスタンブロッティングとライブラリースクリーニングを始めとする様々な検出系で必須の過程だが、従来のX線フィルムが近年急速に電子記憶媒体に取って代わられ、今後入手困難になる可能性が出てきたため急遽購入を決定した。その他の理由は、1)メーカー間の競合による価格の低下、2)「フィルム(20枚/5万円)+現像試薬(8千円)」×数回=約50万円/年の約3年分の消耗品相当額である、3)現像作業での失敗/不調と時間の回避、4)検出感度の向上によるサンプル選択時などの無駄な作業と費用の節約、5)データの数値化やデジタル画像の容易かつ適切な取得による論文の質向上、である。この物品費の消費税が調整できないために1,147円の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由のうち項目2)~5)については他の研究課題にも貢献することから、支出予定としていたシークエンサーのメンテナンスや試薬・消耗品費を他の研究課題で節約できた費用を共通として利用することで補充が可能である。また、H26年度生じた1,147円の残金は、持ち越してH27年度に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)