2015 Fiscal Year Research-status Report
科学技術の商業化を題材とする『教育モデル』の確立とその有効性の評価
Project/Area Number |
26350237
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高田 仁 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70363314)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 浩介 大阪大学, 学内共同利用施設等, 講師 (90444504)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 科学技術の商業化 / 産学連携 / イノベーション / 教育効果の測定 / アントレプレナーシップ / エフェクチュエーション / エコシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究において、定量指標の抽出の限界や当初の想定とは異なる要因の影響が判明したため、本年度の研究では、分析のフレームワークについて再検討した。 まず、商業化の促進には、ステークホルダーへの働きかけと関心の獲得によって技術と市場の洞察を深めることが重要、という前年度の研究結果をふまえて、G-TECを起点に、発明者や産学連携本部の案件担当者などの学内関係者、ベンチャーキャピタリストや各種専門家、民間企業、学内外のギャップファンド等からなる、商業化を取り巻くエコシステムの全体像と構成要素を明らかにした。 次に、商業化の促進には、教育プログラムをきっかけとする案件担当者のコミットメントが大きく影響している可能性が示唆されたため、教育プログラムの実施段階のみに焦点を当てるのではなく、その前後を含む商業化に向けた一連のプロセスにおいて、案件担当者の行動(ステークホルダーへの働きかけ)やエコシステムとの接続性について事例分析を行った。 その結果、G-TECによるアセスメントで商業化に関する情報が整理された後で、産学連携本部の案件担当者と発明者が協力して商業化のステークホルダーに働きかけを行い、共感する仲間を得ながら商業化プロセスを前に進めるという行動が多く見られることが判明した。このことから、近年経営学の領域で注目を集めているエフェクチュエーションの理論と整合的である可能性が示唆された。 また、働きかけの相手(ステークホルダー)や利活用する資源(エコシステム構成要素)が、学外のみならず大学内にも多く存在し、商業化の前進に重要な役割を果たしていることがわかった。このことから、アーリー技術の商業化プロセスにおいて不確実性を縮減させ、商業化を前進させるために、学外のみならず学内のエコシステムの充実と利活用もまた重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)技術商業化教育プログラムの構成要素の抽出:教育プログラムに影響を与えうる要素として、新たに商業化を取り巻くエコシステムの全体像に着目し、その全体像や構成要素を明らかにすることができた。特に、エコシステム構成要素は、学外のみならず大学内にも多く存在しており、商業化の前進に重要な役割を果たしていることを明らかにできた。 (2)教育効果および商業化促進効果の測定指標の抽出、測定方法の決定:定量的な指標の抽出は、サンプル数の制約から困難であるため、教育効果や商業化促進効果に影響を与えうる要素について、定性的な分析を行った結果、アーリー技術の商業化プロセスは、近年経営学の領域で注目を集めているエフェクチュエーションの理論と整合的である可能性を見出した。 (3)大阪大学・九州大学・米国等の大学の技術商業化教育プログラムの調査及び国際比較:前述の通り、分析のフレームワークを再検討したため、まずは、主たる分析対象である大阪大学G-TECの事例について、定性的な分析を試みた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、(1)教育プログラム参加者や産学連携本部の担当者が、商業化促進のために働きかけを行い、共感を獲得する対象であるステークホルダー(周辺エコシステム)の構成要素を明らかにするとともに、(2)多様なステークホルダーへの活発な働きかけと、予想もしなかった共感の獲得が、商業化を促進しうることは、エフェクチュエーションと呼ばれる起業家に特有の行動様式で説明しうるという点を踏まえ、平成28年度は、以下の研究を実施する。 まず、教育効果については、これまでのG-TECの企画運営過程を振り返るとともに、2016年度のG-TECを参与観察することによって、受講者による働きかけの対象となるエコシステム構成要素がどのように発展・充実し、教育効果を高めることに寄与してきたか、また、働きかけを促すどのような工夫がなされてきたかを分析・整理する。このことから、科学技術商業化を目的とする教育プログラムが、その実施環境として満たすべき/推奨する要件を、学内/学外に分けて明らかにする。 次に、商業化促進効果については、G-TEC対象案件について、産学連携本部の案件担当者や発明者によるステークホルダーへの働きかけのプロセスと商業化の進展について、より分析対象を増やして事例分析を行う。このことから、ステークホルダーへの働きかけと共感獲得に影響をあたえうる要素を抽出整理するとともに、それら要素をどのように実践的教育プログラムに落し込むことができるかを検討する。 上記については、前年度未実施であった海外先進事例調査を行うことで比較考察を行う。以上より、科学技術商業化の実践的教育プログラムの企画運営において満たすべき諸条件を明らかにし、「教育モデル」の確立と普及に資することを目指す。
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Causes of Carryover |
物品費については、研究分担者側で主催する教育プログラムの参与観察で必要であったためノートPC(SSD)を導入したため増額となった。また、旅費については、研究代表者の海外事例調査の予定が変更となったため減額となった。人件費・謝金については、謝金不要のボランティアで教育効果を審査する審査員をアサインできたため減額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未実施であった海外先進事例調査を実施するとともに、本年度も国内教育プログラムを対象とした調査を追加で行う。ジャーナルへの論文投稿に必要な経費が申請時見込みよりも高額となるため、これに支出する。
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Research Products
(3 results)