2014 Fiscal Year Research-status Report
人間の想像が同時代の科学文化に及ぼす影響を探究するための、日本SFの科学史的研究
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26350358
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金森 修 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90192541)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本SF史 / 戦後の核文明 / 原爆文学 / 証言派 / 原民喜 / 大田洋子 / 井上光晴 / 福永武彦 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年は基本的には課題完遂のために日本、並びに海外の主要なSF文献、並びにSF史に関する文献群を大量に手に入れるという作業をまずは前提的に実施した。 そしてその基本資料収集はほぼ順調になし終えたと考えている。 ただ、今年は調査の過程でもともとは一九六〇年代初頭の我が国における日本SF史の嚆矢についての歴史的調査を徐々に始める予定であったが、その後微妙な方針転換があった。 それは、SF史の発展の背景となる、科学文明全体への省察という観点を掘り下げる過程で、まさに戦後の核文明や冷戦構造がいかにSF的な想像力を活性化させているのかという事実に気づいたというところからくる。そのため、改めて一九三〇年代以降の原爆開発、並びに原爆投下、そして戦後の水爆開発という負の歴史を細かく見る作業に多くの時間を費やした。そして、我が国は被爆国なので、それに対応した原爆文学がどのような歴史をもつものなのかを細かく見る作業も同時並行的に進めた。具体的には証言派の古典、原民喜、大田洋子などの諸作品、さらにはその証言派から若干離れ、社会的問題や芸術的彫琢にそれぞれの才能を発揮した阿川弘之、井上光晴や福永武彦などの作品群を細かく検討することを実施した。これらの作業は、この研究本来の日本SF史の構築過程にとっても、重要な周辺調査になると信じている。 具体的な作品群としては『夏の花』『半人間』『魔の遺産』『地の群れ』『死の島』などの作品群である。現在それに関連した長大な論攷を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、若干の方向修正はあった。しかしそれも、全く逸脱したものではなく、本来の日本SF史の展開にとっての前提条件的な調査に関わることなので、充分に意味があるものだと思っている。事実、戦後の冷戦構造や核文明一般への省察を全く度外視したSF的想像力が存在するはずはないからである。それらの想像力は、一種の危機意識と、それでもなお、科学的創造性が作りうる未来社会への期待との狭間の中で構成されていったものだからである。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは上記のように現在執筆中の長大な原爆文学関連の論攷を完成させる。それは、私が編纂する『昭和後期の科学思想史』(勁草書房)に掲載される予定であり、その締め切りは今年秋なので、実際の刊行は2016年になる予定である。 そしてその後、より直接的な課題である日本SF史の掘り下げに到達する予定だ。ただ、初めは小松左京などのいわゆる正統派のSF作家を中心に見る予定だったが、いまでは、それから微妙に位置をずらした作家、つまりSF的想像力と戦後派文学、純文学との中間地点的な定位をすることが可能な作家、例えば安部公房などの掘り下げに集中していこうか、と考えている。
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Research Products
(8 results)