2014 Fiscal Year Research-status Report
明治大正期に遡る一次資料「事業場長必携」を用いた東洋捕鯨の操業復元
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26350365
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
宇仁 義和 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (00439895)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 近代捕鯨 / 捕鯨船 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果は下のとおりである。 1.「場長必携」など資料調査による近代捕鯨導入時の操業実態については、「場長必携」に記載されたすべての事業場の沿革を翻刻した。砲手と捕鯨船の回航は、日露戦争で拿捕物件を含んだ捕鯨船は1年のうちで夏と冬など操業期間が異なる事業場間を回航していたこと、事業場設置後数年から5年ほどの間では、操業した捕鯨船が毎年異なっていた。捕鯨船と砲手は固定性が見られた。よって回航の形態は、砲手に多くの漁場を経験させる措置と想像された。日本人砲手は少人数ながら1910年代から見られ、ノルウェー人砲手は1930年代まで見られることがわかった。捕獲統計について、明治から操業している事業場について月別種別のものを作成した。 2.現地調査は、和歌山県や宮崎県、鹿児島県、韓国の蔚山で行い、それぞれ現地資料を複写し、外邦図も用い地形図レベルでの場所の特定ができた。明治大正期の事業場のほとんどは深い入り江や湾に設置されたこと、近世捕鯨の操業地であっても平坦な浜は設置場所として選択されなかったことがわかった。例外はオホーツク海に面した網走と札塔(樺太)で、これは凪のいい夏期の操業であるためと考えられた。 3.写真と映像資料の解析からは、鮎川での映像を発掘したほか、別用務で訪れたキラメッセ室戸で展示中の捕鯨絵はがきの個体がキャプションとは異なりシロナガスクジラであることを見つけた。 4.捕獲実績から見た資源状態の推移は、シロナガスクジラについて全事業場分の捕獲統計を作成したが、捕獲のある事業場や捕獲年代が少ないことから、個体群の判別は困難な状況であり、解析を継続している。 5.翻刻については、紀伊大島と蔚山、その対岸の対馬の事業場について全文翻刻を完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.近代捕鯨導入時の操業実態 1)「必携」の解読 すべての事業場の沿革を翻刻し設置場所を地図上で特定した。捕鯨会社の統廃合を事業所レベルで追跡するのは数カ所にとどまった。拿捕物件を含む捕鯨船の事業場間の回航形態、砲手の移動状況は、明治時代や大正初期からの事業場については統計を作成した。2)比較資料として 『本邦乃諾威式捕鯨誌』の記載事項を図表化するのは目標の半数程度に留まった。現地資料の収集は、鹿児島、宮崎、和歌山、韓国蔚山で実施し、蔚山の鯨博物館では先方の収集成果も利用できた。3)現地調査も上記の4か所で行い、事業場の現地での地形図レベルでの場所の特定ができた。4)写真と映像資料の捜索では、NHKアーカイブスから鮎川での映像を発掘した。 2.就労者と技術移転 予定していた砲手のノルウェー人から日本人への移行状況は、参画砲手の統計表を作成した。当時の植民地の事業場では、朝鮮人や台湾人の就労状況について「場長必携」の記述を収集した。現地調査でも可能な範囲で聞き取りを行なう。 3.捕獲実績と資源状態 シロナガスクジラは全事業場分の統計を作成した。 4.地元対策 予定の内容について調査を行い、特徴の把握が完了した。 5.翻刻と冊子の作成 場所についての相違はあるが、予定の3冊分を終了した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策では、東洋捕鯨以外の捕鯨会社の事業場レベルでの資料の捜索と収集が必要であることがわかった。また、研究開始時には不明であった国立公文書館にも関係資料が所蔵されていることが判明した。こうしたことから、より広範囲の資料捜索なに努めたい。現地調査では、地元博物館の学芸員や地元研究者からの協力を得ることができており、良好な関係を続けたい。研究成果の発表は、地元の媒体、たとえば地方博物館の研究紀要などへの発表を行うことが適切と考えている。 韓国の蔚山広域市にある長生浦鯨博物館を3月に訪問し、平成27年度前半での小規模な企画展示に協力し、図録に寄稿することが決まった。台湾や樺太のカウンターパートを求める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由は2つあり、ひとつは旅行回数が予定よりも少なく、かつ旅費が算定よりも実際の費用が少なくなったことである。もうひとつは、翻刻作業の遅れから年度内に完成されたものの支払が次年度となったことである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画は前年度に未実施だった調査旅行を実施すること、そして翻刻を順調に進め、年度内納品を目指すことである。
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