2015 Fiscal Year Research-status Report
絶縁性コート表面で発生するブラシ・沿面放電のモード遷移と着火性評価
Project/Area Number |
26350470
|
Research Institution | National Institute of Occupational Safety and Health, Japan |
Principal Investigator |
大澤 敦 独立行政法人労働安全衛生総合研究所, 電気安全研究グループ, 上席研究員 (20358435)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 絶縁性コート / 静電気 / ブラシ放電 / 沿面放電 / 静電気障災害防止 / 減災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,産業現場で着火源となっている金属容器・配管をコートした絶縁物表面で発生するブラシ及び沿面放電の着火性とそのモード遷移を明らかにし,絶縁性コートの誘電率と厚さを考慮したブラシ・沿面放電の統一理論を構築し,着火性評価に応用することである。 1.均一帯電法:沿面放電に遷移するときの初期表面電位-放電電荷の関係にばらつきが大きいためブラシ放電から沿面放電に遷移する条件の統一的表式に至っていない。この原因は,中心の測定表面電位が同じであっても,離れた場所まで電位分布が一様になっていないとき,途中で放電進展が止まってしまうことにあると推測できる。これを解決するためにはシート表面を一様に帯電させる必要がある。用いている電位プローブで予め測定した帯電導体板の電位分布(一様分布に相当)と比較しながら帯電電位分布を測定して種々の帯電法を調査し,約18kVまでの一様帯電手法を開発した。 2.クーロンメータ飽和の対処:使用している電位プローブは直径150mmの測定面積が必要となる。中心電位の測定には最小でも150mm四方のシートが必要であり,沿面放電ではこの面積の帯電電荷がほとんど放電するため,多くの場合にクーロンメータが飽和して正確な調査ができていなかった。これを解決するために,背面接地電極にリング状の浅溝を設けて,沿面放電が溝の外側に進展しない溝幅12mm以上(深さ2mm)を実験的に求めた。使用するすべてのシートで,リング溝の内径を80mmにすると沿面放電電荷を飽和せずに測定でき,測定精度を向上させた。なお,溝があっても表面電位分布の一様性は保たれていることも確認した。 3.初期表面電位-放電電荷測定:上記改良のもと,シート材として実際の絶縁性コートやライナーによく使用されるPTFE,ポリエチレン及びホウ珪酸ガラスを用いて種々の厚さで,初期表面電位-放電電荷の測定を改めて実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一様な表面電位分布を形成するための帯電法(7本のコロナワイヤとパンチ穴電極を用いたトリオード帯電)の開発と背面接地電極にリング溝(内径80 mm,溝幅12 mm)を設けてクーロンメータ飽和の問題を解決し,測定精度と再現性を向上させた。この改善のもとに,絶縁性コートやライナーによく使用されるPTFE(厚さ0.05, 0.1, 0.2, 0.3, 0.5 mm),ポリエチレン(0.05, 0.07, 0.08, 0.1 mm)及びホウ珪酸ガラス(0.1, 0.21, 0.3, 0.5 mm)を用いて,初期表面電位-放電電荷の測定を改めて実施した。その結果,ブラシ放電では,放電電荷が初期表面電位の2乗に比例することを見出した。さらに,この特徴はシートの等価的厚さ(厚さ/誘電率)にも依存していた。これらの結果はブラシ放電の着火性評価(リスクアセスメント)に有用な結果であり,着火性評価に応用される。また,シートが絶縁破壊して沿面放電に遷移しないシートの厚さも上記のシートに対して求めた。この帯電法では帯電しながら絶縁破壊の状態も観測できるが,この絶縁破壊が沿面放電に遷移することはなかった。絶縁破壊を起こすとこれが沿面放電に遷移するという仮説もあるが,この結果はこれを覆す実験的立証であり,沿面放電の防止技術につながる結果である。 上記の改善のほか種々の測定上の問題を解決しながら,特に沿面放電遷移の再現性と実験精度を向上させることができたが,これらに時間を要しため,シミュレーションのコード開発に遅れが生じている。しかしながら,これまでよりも再現性と精度がよい測定データを普遍化した実験結果を提供することは重要と考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目標のブラシ-沿面放電の統一的表式の導出と着火性評価手法の提案には,シミュレーションによる調査よりも,再現性と測定精度を向上させた改善手法を用いた実験的調査の継続が重要となる。さらに,シミュレーションとの比較のためにも,この再現性がよい高精度な測定環境での実験的調査が先決されるべきであり,これを優先して実施する。 1.正帯電の実験:これまでの実験はシートが負に帯電している場合なので,正帯電についても追加実験をする。ガラスは正に帯電しやすいので,グラスライニングでの現実的な現象を調査することにもなる。また,正帯電では接地球電極が陰極となり,接地球電極からの2次電子放出が無視できない通常の電極間で生じる放電に類似する負極性放電となる。なお,負極性の放電エネルギーはシートが負に帯電した正極性放電より小さいことが知られており,着火の可能性はシートが負に帯電した方が高くなる。この実験は,沿面放電遷移の放電極性(コート・ライナー帯電極性)による影響も調査していることになり,新たな知見となる。 2.接地金属球径の依存性:当初計画どおりに放電させる接地金属球径の依存性を調査する。絶縁性コート・ライナーに近づく接地物体(たとえば指先など)の大きさの影響を調査することになる。 3.シート電気的特性測定:すべてのシートの絶縁破壊電圧,表面・体積抵抗,比誘電率を測定し,ブラシ・沿面放電との相関を調査する。使用後のシートの電気的特性も測定し,放電による変化(コート・ライナーの劣化)も調査する。 4.統一的表式の導出:得られた実験結果から絶縁性コート・ライナーの着火性評価に応用できるブラシ-沿面放電の統一的表式を導出する。 5.着火性評価法:得られた結果を絶縁性コート・ライナーの着火リスク評価に応用し,その手法を提示する。
|
Causes of Carryover |
比誘電率測定のためのLCRメータレンタルの貸出可能日の日程調整が困難であった
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度のレンタル費の一部に充当する
|