2014 Fiscal Year Research-status Report
悪液質(カヘキシー) に由来する骨格筋機能低下に対する新たな予防・治療戦略の開発
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26350639
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (60448264)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂野 裕洋 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (00351205)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 悪液質 / カヘキシー / 骨格筋 / 萎縮 / 代謝 / ストレッチ / 温熱刺激 / メカニカルストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
非感染性慢性疾患の悪液質(カヘキシー)に由来する骨格筋機能低下の治療や予防には、レジスタンス運動やトレッドミル走行といった積極的な身体運動が有効である。しかし、臨床で遭遇する患者の中には、原疾患の特異的な疾病構造や、糖尿病性合併症・心血管系合併症などの臓器障害などの理由で運動制限を有する者も多く存在する。そのため、積極的な身体運動が行えない患者を対象にした場合においても、優れた運動効果をもたらすことができる他の方法論の早期開発が求められている。そこで本研究課題は、熱やメカニカルストレスなどの物理的刺激に対する筋細胞応答に着目し、温熱刺激またはストレッチがカヘキシーによる骨格筋萎縮とそれに伴う代謝異常の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行うとともに、温熱刺激とストレッチを組み合わせた治療介入が、より効果的かつ効率的に骨格筋機能低下を抑制するのではないかといった仮説を検証することを目的としている。 骨格筋萎縮に関する実験では(1)カヘキシーを惹起するLPSをC2C12筋管細胞に暴露するとタンパク質分解系の活性化と萎縮が生じるが、その萎縮はSOD3やHSP72発現量の増加をもたらす温熱刺激の負荷により抑制されること、(2)ストレッチをC2C12筋管細胞に負荷するとタンパク質合成系の活性化と肥大が生じるが、その肥大はインテグリンβ1/β3阻害剤またはmTOR阻害剤により抑制されることを明らかにした。 骨格筋代謝に関する実験では(3)温熱刺激またはストレッチをC2C12筋管細胞に負荷すると糖輸送能が亢進するが、その糖輸送能の亢進はそれぞれPI3K阻害剤とCaMK阻害剤により抑制されることを明らかにした。 今後は、温熱刺激とストレッチがカヘキシーに由来する骨格筋機能低下を抑制する詳細な作用機序を解明していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、熱やメカニカルストレスに対する筋細胞応答に着目し、温熱刺激またはストレッチがカヘキシーに由来する骨格筋機能低下(骨格筋萎縮とそれに伴う代謝異常)の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い、臨床応用に向けた科学的根拠を集積するとともに、温熱刺激とストレッチを組み合わせた治療介入が、より効果的かつ効率的に骨格筋機能低下を抑制するのではないかといった仮説を培養細胞やモデル動物を用いて検証することが目的である。 まず、骨格筋萎縮に関する実験では、カヘキシーによるC2C12筋管細胞の萎縮が温熱刺激を負荷することでほぼ完全に抑制されることや、その作用機序のひとつとしてSOD3やHSP72発現量の増加を介した酸化ストレスの軽減やタンパク質分解の抑制が寄与している可能性を確認できた。 また、骨格筋代謝に関する実験では、温熱刺激やストレッチを負荷することでC2C12筋管細胞の糖輸送能が亢進し、その亢進はそれぞれPI3K阻害剤とCaMK阻害剤で抑制されることから、熱やメカニカルストレスといった物理的刺激によっても有酸素運動様の糖代謝亢進効果が発揮されるが、その作用機序は刺激の種類によって異なる可能性を確認できた。 以上の検証は、培養細胞実験に基づくものであるが、その成果は運動制限を有する非感染性慢性疾患患者に対する新たな方法論の開発に向けた基礎的資料を提供することができるものであり、骨格筋機能障害に対する安全かつ効果的な予防・治療法の在り方にも示唆を与えることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に実施したC2C12筋管細胞を用いた培養細胞実験では、温熱刺激を負荷することでカヘキシーを惹起するLPSに曝されたC2C12筋管細胞の萎縮を抑制できること、ストレッチを負荷することでC2C12筋管細胞の肥大が生じること、温熱刺激またはストレッチを負荷することでC2C12筋管細胞の糖輸送能が亢進することなどを確認した。今後は、培養細胞を用いた追加実験を行うとともに、温熱刺激とストレッチがカヘキシーに由来する骨格筋機能低下を抑制する詳細な作用機序を解明していく予定である。具体的には、抗酸化酵素(SOD,catalaseなど)、転写因子(FOXO1/3,NF-κBなど)、筋特異的ユビキチンリガーゼ(atrogin-1、MuRF1など)、オートファジー関連遺伝子(Atg5、LC3、beclin 1、SQSTM1など)、運動によって変動するマイクロRNA(miR-1、miR-133a、miR-133bなど)の発現状況や活性化状況を検索対象にしたいと考えている。 また、現在、カヘキシーによる骨格筋萎縮の進行過程に対する温熱刺激とストレッチの併用効果を検証する目的で、伸張可能なシリコン培地(ストレッチチャンバー)内に培養したC2C12筋管細胞に対してLPSを投与し、再現性よく定量的に萎縮を誘導できる培養・刺激条件を検討している。これらの結果を基に、温熱刺激とストレッチを組み合わせた治療介入がLPS誘導性筋萎縮の進行過程に対して相加的に作用するかどうかを、病理組織学的、生化学的、分子生物学的指標を用いて検討していく予定である。 次いで、培養細胞実験で得られたデータを基礎資料として、カヘキシーモデル動物(LPS投与モデルマウスや心不全モデルマウスなど)を用いて、温熱刺激、ストレッチ、または両者の組み合わせによる治療介入を行い、その効果検証を行っていきたい。
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