2014 Fiscal Year Research-status Report
カリブ海地域華僑の再移民に関する移動とコミュニティの史的研究
Project/Area Number |
26360018
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
園田 節子 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (60367133)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 華僑 / カリブ海地域 / 僑務 / 再移民 / 冷戦 / ひとの国際移動 / 華人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は先行研究の読み込みや過去の現地調査で収集した史料による実証研究を進め、カリブ海地域の華僑をいかなる枠組みで捉えるか模索した。まずトリニダードで1930~60年代に現地で発行された複数の華僑新聞を分析し、日中戦争期に国民党僑務委員会が現地に僑務委員団を送り込み、1940年代に第1世世代の華僑コミュニティに国民党支部や学校、華僑新聞を作り、国民党の思想的政治的影響が強まったこと、そして後に華僑社会に入った共産主義者との対立を生み出したことを明らかにした。また1960年代までの長期分析によって、カリブ海地域の華僑華人が再移民先として旧英領植民地の他、アメリカを重視していたことを明らかにした。以上大枠として、現地華僑が政治・教育は英国、経済はアメリカのシステムに則って動く全体像を把握した。 さらにイギリス国立公文書館で8月に実施した調査では、植民省Colonial Office(CO)文書の中のジャマイカとトリニダード・トバゴの華僑社会に関する史料を調査・収集し、1930~1960年代の間に英国植民省がどのように華僑華人に関わったか明らかにした。史料には、華僑商人の英国国籍取得書類など現地化を示すものが多く、基本的に現地社会は華僑を肯定的に包摂した。一方で、1940年代以降は旧英領カリブ海地域の共産化を恐れ、華僑華人社会に中国人共産主義者が入って政治的思想的活動することを警戒した。ジャマイカでは政府は監視する華僑を特定してその動向を注視し、トリニダードでは華僑社会の内部状況を知るため広東語話者の英国エージェントを英領香港警察から選んで送り込むことを検討した。今後の調査研究で、植民地統治の遺制を持ち冷戦期の政治力学に直接関係する外部社会が、華僑社会に直接的間接的に接触する際、華僑社会が内包する世代や言語の多様性を考慮している事実を意識する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画の内容は4つから成り立っている。(1)関連する二次文献の収集および英中両政府側の公文書分析を通して再移民の歴史理解を俯瞰的に得る。(2)カリブ海地域での集中的フィールド調査を通して現地華僑の記録した中国語史料の調査をおこない、再移民側の論理と戦略をコミュニティ事情から解明する。(3)議論の共有と深化を図るため、成果は随時国内外の関連学会や研究会で報告し、研究の方向性や議論の指針とする。そして(4)学術・民間両領域での活字発表をおこなう、というものである。 初年度であるため、(1)と(4)に重点を置いて研究を遂行し、海外調査と国際学会における英語報告、国内で領域を超えた研究者との研究交流をおこない、一定の成果を上げることができた。海外調査は予定に沿って計画したが、5月予定のスタンフォード大学における史料調査は翌年に延期した。8月の英国国立公文書館の文書調査ではジャマイカとトリニダードの華僑社会に関する公文書を中心に渉猟し、両国の華僑社会が冷戦中、英国の反共政策に基づく関心に晒されていたことを明らかにできた。しかしガイアナとベリーズの史料収集は時間の関係で断念した。口頭発表による発信は、8月にパナマ市で開催された世界海外華人研究学会において、華僑新聞から分析したトリニダード華僑社会の世代別コミュニティの形成と華僑社会内部を二分した国共対立を英語で報告し、カリブ海地域やラテンアメリカ地域の華僑華人研究をおこなう世界の研究者と研究交流した。また1月に上智大学イベロアメリカ研究所において、同大学のラテンアメリカ研究者とラテンアメリカ・カリブ海地域の華僑華人研究を通して地域構造や国際関係を分析する視点の可能性について意見交換をした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の成果が順調であったことを踏まえ、史料収集と並行してラテンアメリカ研究や華僑華人研究の専門家との意見交換をおこない、本研究の意義や方向性に対する意見やアドヴァイスを受けながら議論の枠組みを継続的に模索する。また平成26年度に収集した資料は、1990年代からの関連先行研究の進展をまとめた研究動向部分とトリニダード華僑社会の世代別構造ならびに再移民現象を史料から論じた実証研究部分の2部構成の論文として執筆し、次年度に学術雑誌に活字化する予定である。 さらに当初の計画通り、平成27年度には台湾における中国国民党僑務委員会資料の調査、ならびにトリニダード・トバゴとジャマイカにおける現地華僑の中国語史料を可能な限り発掘し、網羅的に調査収集する。トリニダード・トバゴとジャマイカは華僑人口が同地域内でも比較的多く、研究蓄積があり、研究者も複数存在するので、移民個人の自伝や回想録あるいは地域間交易・貿易業に携わる華商の文献資料が入手可能か随時情報を集める。
|
Causes of Carryover |
平成26年5月ゴールデンウィーク中に予定していたスタンフォード大学における国民党僑務委員の個人資料の調査収集は、この時期に家族が緊急入院する事態が発生したため実施できなかった。そのため当年このアメリカ現地調査分の未使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年ゴールデンウィーク中に、スタンフォード大学における史料調査と収集をおこなう。
|
Research Products
(8 results)