2015 Fiscal Year Research-status Report
カリブ海地域華僑の再移民に関する移動とコミュニティの史的研究
Project/Area Number |
26360018
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
園田 節子 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (60367133)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 華僑 / カリブ海地域 / 僑務 / 再移民 / 冷戦 / ひとの国際移動 / 華人 |
Outline of Annual Research Achievements |
包括的な華僑華人考を長短あわせて4編執筆した。3編は歴史、1編は現在の世界各地における華僑華人の動向報告である。このうち3編は平成27年度に出版された。ただし、歴史学叢書の分担執筆の形態で商業紙に出版する予定であった再移民研究の重要性と可能性に言及するカリブ海地域華僑の事例を含めた包括的華僑華人論の1編は、編集者側の大幅な作業遅延のため同年内に出版されなかった。このため、カリブ海華僑と再移民に関する出版業績がまだ上がっていない。 一方で、遅れ気味であったスタンフォード大学フーバー研究所史料館が所蔵する陳家賢文書の収集と分析は順調に進んだ。陳家賢は国民党僑務委員会からトリニダードに直接派遣された僑務の担当責任者であり、抗日戦争末期から冷戦期にかけて展開した現地僑務の全体像を明らかにしたが、口頭報告・活字発信はこれからである。一方、カリブ海地域と同様に英領植民地の過去を持つがゆえに興味深い共通性・差異性を呈する、カナダの華僑社会における抗日戦争開始時期から冷戦期スパンでの僑務研究を進め、これを国内外の学会や研究会で報告した。カナダでは、国民党の僑務政策の中で、国民党が直接派遣した僑務委員とその動きに呼応して入党した現地在住華商が任命された僑務委員の、2種の委員で構成された僑務体制がどのように機能したかを明らかにした。カリブ海地域の旧英領植民地の国々で同時期におこなわれた国民党僑務と華商の再移民を考えるにあたり、有効な比較研究の下地を準備できた成果であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画で平成27年度は、国外における中華民国側政府公文書の関連文献の収集を台湾中央研究院近代史研究所で継続し、本格的なカリブ海地域での調査をトリニダード・トバゴとジャマイカから開始し、移民個人の自伝や回想録、地域間交易・貿易業に携わる華商の文献資料を優先的に収集することになっていた。 この計画はまず、平成27年度に実働型の校務業務が夏に集中したため、国外史料調査については昨年実施できなかった米国スタンフォード大学フーバー研究所史料館が所蔵する中華民国僑務委員陳家賢の史料調査を5月上旬に実施できたのみである。しかしこの調査で陳家賢の日記を分析し、1945~47年の2年間、トリニダードの首都ポートオブスペインで実施された僑務が、まず国民党支部ならびに抗日後援会を組織する目的で中華会館を設置し、その後の中華商会、中華学校の設立がこれと連なる体系立った関連業務であったことを明らかにした。それとともに、中国国民党側のトリニダード現場担当者は、トリニダード華僑とともに対岸の南米ベネズエラ華僑の動向にも注視し、南米僑務の拠点の一つとしてトリニダードの僑務を行っていたその位置づけについて明らかにした。中華民国側政府公文書は別の科研プロジェクト実施時に台湾同研究院で「中南美司」「北美司」の関係僑務史料の複写を完了するとともに、1956~66年に僑務委員会が発行した『僑務報』編集史料集を購入した。 以上のように、中華民国の僑務実施側に関しては、必要史料の収集が順調に進んでいる。しかし国外史料調査の実施、ならびに国外の学会報告で英語報告して助言や批判を得て論文の執筆に移る作業にはやや遅れが出ており、来年度に集中的に遅れを取り戻す必要性を強く認識している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は1年間の在外研究期間を得たため、研究を集中的立体的に行う機会を十分に生かし、英国を拠点にして本研究を進め、前年度の遅れを取り戻す。在外研究受け入れ先であるオックスフォード大学で中国研究や英国帝国研究の第一人者と意見交換し、関連書籍に関する知識を深めながら、英国内でカリブ海の旧英領植民地諸国の中国移民関係史料に関する文書を収集する。ロンドンの公文書館でFOやCOなど英国植民地管理に関わる関係史料とともに、英国図書館に所蔵される植民地ガゼットや新聞を調査収集する。 また、本来当該年度実施予定であったトリニダードとガイアナ2か国に加えて、平成27年度に実施できなかったジャマイカ調査も行い、12月から1月にかけて3か国の中国移民関連現地史料の調査を進める。ガイアナに関しては2016年5月にバンクーバーで当地在住のガイアナ華僑史研究者のトレバー・スー・ア・クワン(Trevor Sue-A-Quan)から、ジャマイカに関しては神戸大学の柴田佳子教授から、調査のための人脈紹介ならびに学術的助言を得て現地入りするという、具体的な推進方策に則って進める。 さらに、英国では2016年9月7~9日にロンドン大学において英国中国学会と英国韓国学会、英国日本学会の合同学会が開催される。現在本研究をChina’s Transnational Politics and Disputes among the Overseas Chinese in Port of Spain, Trinidad 1930-1970と題して報告に応募中である。8月23~25日にサンクトペテルブルクで開催されるヨーロッパ中国学会における英領植民地での僑務政策研究報告については、既に審査を通過したため、これら2つの国際学会における英語発信を通じて研究への助言や批判を得て、内容と議論の深化に努め、論文の執筆に活かす。
|
Causes of Carryover |
平成27年度には、台湾中央研究院での国民党僑務関係史料の収集のための調査、ならびにトリニダード・トバゴとジャマイカにおける華僑関連現地中国語史料の調査のために、海外旅費を計上していたが、校務のため夏の調査予定を組めず、これらの海外調査が実行できなかった。その分の未使用額が多く出るとともに、現地協力者への謝金項目がゼロとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
台湾における史料調査は別ルートによって可能な限りの史料を収集することができた。このため、平成28年度にはトリニダードとジャマイカに加えて、当初の予定通りガイアナでの調査を組む。 同時に、2016年度に1年間の在外研究によって英国に滞在する利を生かし、英国に存在する旧英領西インド諸島の史料の中から、中国移民関連史資料を綿密に調査収集し、それにも調査費を当てる。
|
Research Products
(10 results)
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] Discussant2015
Author(s)
Setsuko Sonoda
Organizer
International Workshop “Complexity of Innovative Colonial Milieu: Socio-Economic Transformation in the Colonial Ports and Their Hinterlands in Modern Asia, 1850s-1940s”
Place of Presentation
Institute for Research in the Humanities, Kyoto University
Year and Date
2015-08-09 – 2015-08-10
Int'l Joint Research / Invited
-
-