2015 Fiscal Year Research-status Report
東アジア資本の進出にともなうラテンアメリカの産業高度化の可能性と課題
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26360025
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
藤井 嘉祥 専修大学, 経済学部, 兼任講師 (30625190)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グアテマラ / メキシコ / 中米 / アパレル産業 / 輸出工業化 / 産業高度化 / 社会的高度化 / 労働運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はメキシコ・中米のアパレル輸出工業化における東アジア資本の影響を①環太平洋国際分業の再編成の分析、②東アジア企業の輸出生産戦略、③労使関係の領域から分析し、企業中心的な産業高度化論を多様な政治・経済・社会の主体の国境を越えた相互作用を基盤とする高度化論へと発展させることを目的としている。 27年度は上記①と③の領域で進展を得た。第一に、前年度に引き続き貿易統計から国際分業の動向分析を進め、環太平洋地域の国際下請けの拡大が韓国、香港のOEM企業のグローバル戦略と呼応している点が確認された。第二に、グアテマラにおいて、韓国企業の労使紛争と自由貿易協定の労働仲裁法廷に関して、労組、国連人権高等弁務官事務所等で聞き取りを行い、グアテマラが外資優遇による産業高度化を進めつつ、外資の引き留めのために労働者の権利が犠牲となっている事例に該当することが明らかになった。第三に、メキシコのユカタン州で行った香港企業の人事責任者と労働者への聞き取りから、同社が地元のコミュニティ活動に活発に参加するなど労使関係だけでなく労働者の居住村とも良好な関係を築いていることが明らかになり、産業高度化と社会的高度化を両立させている事例と位置づけることができた。 以上の研究実績の意義は2点ある。まず、前年度に明らかにした中米における韓国企業の機能的高度化は、企業の社会的責任(CSR)の徹底と制度的な労使関係の社会的基盤に欠け、社会的高度化の未成熟さにより労使紛争を契機に国際市場における信頼喪失のリスクが高いことを明らかにした点である。第二に、東アジア企業が国際下請け網の拡大を先導していることから、CSRによるサプライチェーン統治の鍵が、欧米由来のCSRの理念を東アジア企業がどのように受容し、実践するかにある点を明らかにしたことは、途上国の労働者の厚生を論じるうえで大きな意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は労使関係の領域を中心に現地調査と研究を展開した。これまで関係を構築してきた労働者支援NGOを起点に多様な労働関係組織を訪問し、聞き取り調査を順調に進めることができた。とりわけグアテマラにおいては当初の計画以上の進展を得た。過去の大きな労使紛争の大半を仲裁した経験を持つCSR監視のローカルNPOから、過去の労働争議と解決プロセスに関する多くの資料提供を受けたことは労働問題の基礎データの整備において大きな意義がある。さらに労働者への聞き取りもNGOと労組の協力を得て大きく進展した。反面、メキシコにおいては、香港企業での調査からの知見である良好な労使関係を裏付ける労働者コミュニティでの調査が、十分な時間が確保できなかったために遅れている。グアテマラでの調査が大きく進展していることから、平成28年度にはメキシコでの現地調査に十分な時間を確保することが可能であり、当初の研究目的の達成のために順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は主に二つの方向で進める。ひとつは、前年度に十分な調査日程を確保できなかったメキシコでの労働者組織への聞き取りとグアテマラでのフォローアップ調査を実施し、理論研究と現地調査に基づく実証研究を総合し、論文投稿等により一層の研究成果の公表を進めるとともに報告書の作成に注力する。二つ目は、ラテンアメリカにおける東アジア資本の影響に関する研究をさらに展開していくために、ニカラグアやハイチ等の新興輸出工業化国での調査のための布石として、当該諸国のキーパーソンとの関係構築を進める予定である。その理由は、これまでの調査から、特に韓国、台湾資本が地域統合や特恵関税制度を利用しつつ中米・カリブ地域における域内分業の構築に着手しており、新興輸出工業化国に参入して東アジア企業ネットワークを広げつつあることが明らかになったためである。メキシコに集中していた日系自動車部品メーカーのニカラグアへの生産移転も始まっており、中米とアジア企業の関係の深化が今後見込まれ、企業の域内展開を追う必要があるためである。
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Research Products
(3 results)